ピュアEV初のRSモデルとなる「RS e-tron GT」も同時発表
ついにベールを脱いだアウディe-tron GTのプロポーションは、一見したところA7スポーツバックとよく似ているが、そのフォルムはより低く、そしてダイナミックに見える。とりわけルーフの頂点からテールエンドに向けて下降していくラインは直線的で、いかにもスポーティだ。
「このスタイリングで十分な後席のヘッドルームを確保できるのだろうか?」
そんな疑問が自然と浮かび上がるが、チーフデザイナーのマーク・リヒテは「私の身長はほぼ2mですが、ほら、ご覧のとおり、私がリアシートに腰掛けても頭上にはまだスペースが残っています」と自慢げに語る。フロア下に巨大なバッテリーを積むEVであることが信じられないようなパッケージングだ。
その秘密はアウディが“J1”と呼ぶプラットフォームにある。たとえば同じアウディのe-tron スポーツバックであればバッテリーはホイールベース間のフロア一面に敷き詰められているが、“J1”ではリアパッセンジャーの足下にあたる部分のみバッテリーを省くことで着座位置をより低くし、リヒテにとっても十分なヘッドルームを確保していたのである。
ここまで読み進んで「それってポルシェ・タイカンと同じレイアウトじゃない?」と思ったアナタは鋭い。実はこの“J1”プラットフォームはポルシェと開発したものであることをアウディ自身が認めている。つまり、e-tron GTはタイカンの兄弟にあたるモデルなのだ。
たとえば、e-tron GT クワトロとRS e-tron GTの2グレードが設定されるe-tron GTのバッテリー総容量は93kWhと発表されているが、これはタイカン・ターボやターボSの93.4kWhと実質的に同じ。前後アクスルに永久励磁シンクロナスモーターを一基ずつ搭載する点も、リアモーターにEVとしては珍しい2段ATを組み合わせている点もタイカンに倣っている。ただし、モーターのパフォーマンスはいくぶん異なり、e-tron GT クワトロは476ps、その高性能版であるRS e-tron GTは598psで、どちらもタイカン・ターボやターボS(いずれも625ps)を下回る。このため0-100km/h加速はe-tron GT クワトロ:4.1秒、RS e-tron GT:3.3秒で、タイカン・ターボ:3.2秒、タイカン・ターボS:2.8秒を少しずつ後れをとる。
なんだかこれではe-tron GTがタイカンよりも格下のように思えるかもしれないが、実際のところ、こうした性能の違いは両者のキャラクター設定から生み出されたものと考えたほうがいい。なにしろタイカンのことをスポーツカーと明言するポルシェに対し、アウディはe-tron GTを「未来のグランドツーリスモ」と説明しているのだ。
そのことを証明するかのように、実質的に同じ容量のバッテリーを積んでいるにもかかわらず、航続距離はe-tron GT クワトロ:487km、RS e-tron GT:472kmで、タイカン・ターボ(383〜452km)やタイカン・ターボS(390〜416km)を明確に引き離す。実際、電費ではe-tron GTがタイカンを2〜3割凌いでいる。おそらく、足回りの設定もタイカンより快適性重視の方向に振られていることだろう。
いっぽうで800V系システムを備えていることや、日本仕様でも最大150kWの充電出力を許容できる点はタイカンと共通。ちなみに日本仕様の普通充電は8kWまで対応するようだ。回生ブレーキだけで最大0.3Gの制動力を生み出し、通常走行時はほとんどメカニカルブレーキを使わずに済む点もタイカンと同じだ。
気になる価格はドイツ本国でe-tron GT クワトロが99800ユーロ、RS e-tron GTが138200ユーロと発表されている。タイカンとの価格差から割り出すと、日本ではe-tron GT クワトロが約1300万円、RS e-tron GTが約1800万円と予想できる。これは1143万円で販売されているe-tron スポーツバックと比較してもうまい価格設定といえるのではないか? e-tron GTは2021年にも国内発売される見通しだ。