張り子の虎ではないそのスペックは現実!!
これを見たリポーターはすぐにVW本社とコンタクトを取り、ほどなくして「ベルリン郊外のクローズドコースを占有したので、そこでお楽しみ下さい」というありがたいメールが届いた。このコースは、旧ソ連の軍用飛行場跡に作られたもので、現在はミシュランが所有する広大なスペースだ。
当日、現地でリポーターを迎えてくれたのは、開発を担当したゼマル・スウェナー氏とデザイナーのマーク・リヒテ氏で、まずはメカニックから簡単な車両のインストラクションを受ける。それによると、このモンスターゴルフ、普通に走らせるだけなら特別な操作やテクニックは必要ないとのこと。ただし、ダッシュボード上にあるESPのオン/オフ・スイッチはダミーで、実際には作動しないことが告げられる。この時、確かに彼はニヤリと微笑み、リポーターに軽くウインクしてみせた——。
時間も限られているので、早速ヘルメットを被り、ホワイトでトリミングされたレーシングシートに身を任せる。ただし、セーフティベルトは量産型と同じ3点式である。それにしても、エアコンが省かれたキャビン内は暑い。すでにメカニックの手でエンジンとタイヤのウォーミングアップは済ませてあり、即スタート可能な状態だったため、躊躇なく走り出すことに。一刻も早く、キャビンにフレッシュエアを入れたかったのだ。
まずは、6速ATのDレンジに入れてスタートする。本当は1速と2速ではパワーを絞っているはずだが、それでも1速ではアクセルを踏み込んだだけで、リアタイヤはまるで凍りついた路面を掻くかのようにスピン。そこで、わずかにスロットルを緩めて2速にシフトアップするが、そっと右足に力を込めただけでまたスピンという有様だ。前述のとおりESPが装備されていないため、リアタイヤはグリップを失って路面状況に敏感に反応し激しく左右に泳ぎ出す。まるで、モンスターとダンスをしているような気分である。
だからもう、ご想像どおりコーナーではスロットルとステアリングとの格闘となる。それでもダイレクトかつシャープなステアリングは正確そのものだから、テールのスライド量に合わせてステアリングアングルを変えていけば、比較的容易にカウンターステアを当てながらコーナーをクリアしていくことができる。もっとも、こんなことをしていてはタイムをロスするばかりだが……。
続いて、果てしなく長いストレートに向かい、あらためて深呼吸をして右足に力を込める。後方から金属的なノイズと豪快なサウンドがヘルメットを通して耳に届くのと同時に、1700kgのラビットはライオンに追い立てられるかのように猛然と駆け始める。すると、180km/h、200km/h、250km/h、そして300km//hと、スピードメーターの針はまるで別次元の出来事のように上昇を続ける。懸念していたスタビリティも、速度を上げるに従ってグンと安定感を増し、ステアリングに軽く手を添えているだけで、全長わずか4.2mのスーパーGTIは路面に吸い付くように突き進んでいく。これならば、325km/hも現実的な世界だろう。
確かに、このゴルフGTI W12‐650は、冒頭に紹介したGTIミーティングのための“客寄せパンダ”ではあったが、その正体はぬいぐるみのパンダでなく、実にエキサイティングなホンモノのパンダだった! しかも、VWによれば、もし今後注文が殺到するようなことがあれば生産を検討してもいいという。というのは、このスーパーGTI、ボディを除く各パーツは決して特別に開発されたものではなく、すべて同社のストック棚に並んでいるもので、必要とあらばそこからすぐに調達できるというわけだ。もちろん、スーパースポーツ並みのプライスタグを覚悟せねばならないのは間違いないが——。
リポート:木村好宏/フォト:アヒム・ハルトマン
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