ワインディングでも常に安定した姿勢を確保
SUV人気はいまも留まるところを知らない。昨今の主流はコンパクトSUVにあり、個性溢れるモデルが次から次へとリリースされている。その中で生き残るには当然ながらライバルを出し抜く力が必要だ。デザインやパフォーマンス、あるいは商品性など、それぞれのブランドが得意とする分野で、実力や魅力を高めることが肝要とも言える。そんな激戦区にフォルクスワーゲンが投入したのがT-Cross(Tクロス)だ。果たしてこのクルマにはどんな個性が植え付けられているのだろうか。
Tクロスは、フォルクスワーゲンのほとんどのモデルの基礎となるモジュラープラットフォーム“MQB”をベースに仕立てられた。ボディサイズは全長4115×全幅1760×全高1580mmで、ホイールベースは2550mm。このサイズはBセグメントのコンパクトクラスに属し、フォルクスワーゲンの主軸モデルであるポロ(4060×1750×1450mm)にかなり近いものとなっている。エンジンは1L直列3気筒ターボを搭載し、7速AT(DSG)を介して前輪を駆動する(4WDはなし)点も共通だから、ポロのSUVバージョンとイメージするのがわかりやすいかもしれない。
そんなTクロスの室内はかなり居心地がいい。全高を上げてヒップポイントが高められているため、特に前席からの見晴らしはよく、インパネ周りの色使いは明るく開放的。レバーやスイッチの配置や操作法などもオーソドックスで、とにかく扱いやすい。
そんな印象は走り出しても変わらなかった。1Lの3気筒エンジンと聞くと非力そうに思えるが、116ps/200Nmのパワーは必要にして十分で、特にスロットルペダルを床まで踏み込まなくてもスーッと発進し、40~60km/hの一般的な交通の流れに簡単に乗れる。ATは小気味よくぽんぽんとシフトアップしていって不快なショックを伝えてこない。今回は大人の男性3名乗車での試乗で、1270kgというカタログ値からさらに200kg以上は重量が増していたはずだが、一般道での加速力としとしては問題なし。もっとも、3名乗車のまま坂道を登るときはさすがにペダルを踏み込む必要があり、それに伴ってエンジンの唸りは多少大きくなるが、遮音がしっかりしているからだろう、耳障りになるほどではなかった。
感心したのはワインディングロードで常に安定した姿勢を保ち続けていたこと。コシのあるサスペンションがしっかりと車体を支えて不安感を伝えてくることはなかった。また、道路の継ぎ目やマンホールの蓋を乗り越えても余計な上下動は見せず、タタンッと1回でショックを収めてくれるなど足捌きは上々で、乗り心地もいい。最近は“コンパクト”をうたっていても実際にはボリューミーで幅広いクルマが多いが、Tクロスは数値どおりスリムなため、細い道でのすれ違いなどでも気を使わずに済むなど、一般的なハッチバックのように安心して扱える。
いずれのシーンでもとにかく運転しやすく、ユーザーフレンドリーなのがTクロスの真骨頂だ。流行りに乗って作られたと思われるかもしれないが、実際のところはフォルクスワーゲンらしい実直さが貫かれている。そのブレのなさは他のライバルを出し抜くに十分な個性であり、Tクロス最大の魅力といえるだろう。
【Specification】VOLKSWAGEN T-CROSS TSI 1st PLUS/フォルクスワーゲンTクロス・ファースト・プラス
■車両本体価格(税込)=3,379,000円
■全長×全幅×全高=4115×1760×1580mm
■ホイールベース=2550mm
■車両重量=1270kg
■エンジン種類=直3DOHC12V+ターボ
■総排気量=999cc
■圧縮比=10.5
■最高出力=116ps(85kW)/ 5000-5500rpm
■最大トルク=200Nm(20.4kg-m)/2000-3500rpm
■燃料タンク容量=40L(プレミアム)
■燃費(JC08 / WLTC)=19.3/16.9km/L
■トランスミッショッン形式=7速DCT
■サスペンション形式=前ストラット/コイル、後トレーリングアーム/コイル
■ブレーキ=前Vディスク/後ディスク
■タイヤ(ホイール)=前後215/45R18