このカテゴリーがクロカン4WDといわれた時代では考えられない話だが、いまやオンロードで遅いSUVなど全クラスを見回しても存在しない。ならばSUVの“S”、スポーツの資質はどのレベルにあるのか? ここでは高性能SUVの代表格となる3車からその答えを探ってみる。
スポーツ濃度、味付けはそれぞれで個性的
単に速い、というだけならもはやSUVでもコンパクトクラスからラージ級まで相応の選択肢は揃っている。だが、走りの質をあれこれ吟味するなら、一番バランスが取れているのはミドル級に位置付けられる高性能モデルだろう。なぜなら、プレミアム性まで含めたSUV本来の魅力を網羅しつつも、ドライバーズカーとして成立する絶妙なディメンションが与えられているからだ。
MERCEDES-AMG GLC43 4MATIC COUPE/気負わずにAMGの世界が愉しめる入門モデル。43、というモデル名が示す通りAMGのラインナップでは入門モデル的キャラクターが持ち味。これで不満なら、GLCには4LV8ツインターボを搭載した63という選択肢がある。AMGモデルは、このクーペのほかに標準的なSUVボディでも同様のグレードが用意。
メルセデスAMGの場合、それはGLCに乗ってみると強く実感できる。AMGモデルだと、全幅が1.9mを超える点こそ日本では多少煩わしい。だが、GLEあたりと比較すればボディの端までドライバーの目が届くサイズ感なので、乗り手を積極的に操ろうという気にさせてくれる。
MERCEDES-AMG GLC43 4MATIC COUPE/GLC43に搭載されるのは、3LのV6ツインターボ。AMG伝統の、いわゆる「ワンマン・ワンエンジン」ではないが高回転域に至る軽快な吹け上がりは間違いなくスポーティだ。
今回の試乗車は、3L・V6ツインターボを搭載したクーペボディのGLC43。上にはAMGを象徴する“ロクサン”が控えているだけに存在としては少し地味だが、もちろんパフォーマンスは十分にスポーツできる水準だ。
MERCEDES-AMG GLC43 4MATIC COUPE/装着するタイヤは40扁平の前後20インチ。
AMGモデルというと圧倒的なトルク、あたかも敵を力技でなぎ払うような迫力が持ち味となっているが、それを43に期待すると肩すかしを食らう感はある。だが、このV6はショートストロークのメリットを活かして高回転まで回す歓びが見出せる。SUVに限らず、いまどきの高性能車は幅広い回転域で大トルクを引き出せるのでスピード管理は右足だけで事足りるのだが、43は走る場面に応じてパドルを叩きたくなるキャラに仕上げられている。
BMW X3M COMPETITION/SUVでもMモデルらしさをダイレクトに表現。X3シリーズの旗艦、というポジションも担うだけに見ためのラグジュアリー性はハイレベル。しかし、走りのキャラクターはベースモデルとは完全に別モノで、純粋なスポーツ性という意味では今回の3台でも屈指といえる。それはクーペボディのX4Mでも同じだ。
それを受け止めるシャシーも、メルセデスの一員らしく良い意味で中庸。普段使いではベース車と同等以上の快適性を確保しながら、スポーティに振る舞いたいときにはAMGらしい安定感を発揮する。前述のパワーユニットともども、スポーツ濃度はいわば健康的にたしなむ仕立てといえるだろう。
BMW X3M COMPETITION/Mモデルの直列6気筒としては最新世代となる3Lのツインターボ。ベース仕様でも最高出力は480ps、最大トルクは600Nmを発揮。コンペティションではパワーが30ps上乗せされる。
そんな、食べ物にたとえるなら“塩分控えめ”な43と比較するとX3Mは紛れもないガッツリ系。試乗車はベース仕様より高性能なコンペティションで、最高出力は3Lの排気量ながら4LのAMG63とも渡り合える510psを絞り出す。ちなみに、ベース仕様でもその数値は480ps。ハイチューンぶりでは、後述のマカンターボすら凌いでいるわけだ。
BMW X3M COMPETITION/タイヤ&ホイールは前後21インチ。
フォト=望月浩彦/H.Mochizuki(GLC43/マカン・ターボ)、郡 大二郎/D.Kori(X3M) ルボラン2020年6月号より転載