非の打ち所のない新型の仕上がり
ボディサイズ由来の不安を除けば、新型ディフェンダーはほとんど非の打ち所がなかった。ほぼ1日付き合ってみたけれど、イヤなところはひとつもなく、 むしろ 「これはいいかも」と感心して唸るところが多かったのである。それは主に操縦性と乗り心地で、110の乗り味を支配しているのはエアサスペンションに他ならない。
ロングホイールベースと2トンを超える車両重量のおかげである程度の乗り心地は担保できるはずだけれど、電子制御式ダンパーと空気ばねの組み合わせによるエアサスペンションが路面からの入力を巧みに吸収し、速度や路面状況を問わず常に一定レベルの快適な乗り心地を提供してくれる。クラストップレベルのオフロード走破性を備えたへビューデューティなSUVであることを考慮すると、オンロードでのこの優れた乗り心地には脱帽する。
前がダブルウイッシュボーン、後ろがマルチリンクのエアサスペンションのポテンシャルを十分に発揮しているのは、頑丈なボディやシャシーのおかげもあるだろう。新型ディフェンダーは“D7x”と呼ぶ新しいアーキテクチュアを使用している。資料によれば「従来のラダーフレーム構造と比較して3倍のねじり剛性を確保」とある。額面通りに受け取ると、ランドローバーにとってラダーフレームはもはや過去の遺産という認識なのだろう。以前のディフェンダーが採用していたラダーフレーム+リジットアクスルと同等レベルのオフロード性能を確保しつつ、オンロード性能を飛躍的に向上させることに、この新しいアーキテクチャで成功したというわけだ。
エアサスペンションはハンドリングでも大活躍をする。車高と重心が高いSUVではどうしてもばね上が大きく動いてしまう。このエアサスはばね下のみならずばね上も上手にコントロールしているようで、コーナーの進入から脱出までの間に発生するピッチ/ロール/ヨーのつながりがスムーズかつ適度に抑え込むから、いわゆる「グラッ」とした挙動は皆無だ。ステアリングの動きに対してクルマは従順に向きを変え、極端なアンダーステアも出ず、とにかく気持ちよく曲がってくれる。
こんなに大きなボディをここまでドライバーの意志通りに動かせるとは正直思ってもみなかったので驚いた次第である。
エンジンはいまのところ2Lの直列4気筒ターボのみで、これに8速ATが組み合わされる。300ps/400Nmのパワーは2.2トンを動かすのに十分なのだろうかと心配だったがさにあらず。市街地での発進、高速道路での加速や追い越しなど、日常の場面でパワー不足を感じることは一度もなかった。
今回は5ドアの110(ワンテン)だが、3ドアでショートホイールベース (全幅は110と同値)の90(ナイティ)も日本向けには用意されている。エンジンは1種類でボディは2タイプだけだが、新型ディフェンダーには多彩な仕様とオプションが用意されていて、カタログを眺めているだけでも楽しくなる。試乗車は110のベースモデルに“アドベンチャーパック”と呼ぶオプションが装着されている。中でも驚いたのが、ラゲッジルームに内蔵されたエアコンプレッサーである。タイヤに空気を入れることはもちろん、“ポータブルシャワーシステム”という6.5Lタンク付きの高圧洗浄機まで付属していた。このクルマの使われ方を熟知した装備は誠に天晴れである。
そしてやはり最大の魅力は価格だろう。試乗車の本体価格は589万円、アドベンチャーパックは約37万円である。競合のドイツ車に比べるとずいぶん安い。というか、やっぱりいまのドイツ車の価格が高すぎるのだ。