BMWとの緊密な連携により、以前に比べれば飛躍的に開発期間は短縮されたが、それでも現行3シリーズが発表されてから、この時を待っていたアルピナ・フリークは多いのではないだろうか。今回、一般道からサーキットまで、ひと通り走らせてみての結論を先に言うなら「待った甲斐あり」というものだ。
あらゆる場面でストレスフリー
目の前に現れたイモラレッドのB3セダンは、全長4719mm、全幅1827mm、全高1440mm、そしてホイールベースは2851mmと、スタンダードの3シリーズよりもほんの数mm単位で大きくなっている。その理由は、アルピナ独自のデザインによる控えめながら最大の効果を上げる空力パーツで、フロントエンドではリファインされたエアインテーク、中央のアルピナロゴを配したリップスポイラーが理想的なダウンフォースを発生。ボディサイドは新デザインのサイドシルが絶妙なアクセントとなってサイドビューを引き締める。そしてリアエンドは、ディフューザーの左右に2本ずつ並ぶオーバルのエンドマフラーと、トランクリッドのスポイラーが内に秘める高性能を静かに伝えてくる。
0→100km/h加速は3.8秒、最高速度は303km/h(ツーリングは3.9秒と300km/h)。4WDによりあらゆる速度域で盤石の操縦安定性を誇る。
インテリアもまた、レザーとウッド、アルミが絶妙なハーモニーを奏でてアルピナの世界観を表現。ステアリングはタッチとグリップに優れたラヴァリナレザーを手縫いで仕上げたもので、リムにはヒーターが標準で備わる。
あえて高性能を剥き出しにしないアンダーステートメントを是とする姿勢を貫くアルピナ。ボディはリムジンのほかにツーリングも用意。
新型B3に搭載されるベースエンジンはBMW社内の開発コードS58、すなわちM社がまもなく発表するM3/M4に搭載予定のスポーツユニットで、排気量は2993cc、最高出力は462ps、最大トルクは700Nmとなる。オリジナルS58の最高出力は480psあるいは510psで、最大トルクは600Nmとなるが、アルピナはピークパワーを抑える一方で、常用回転域で16.5%も大きなトルクを発生するようにチューン。そして、このエンジン特性に合わせたZF製の8速ATが最適なパワーを4輪に伝える。セダンのダイナミック性能は0→100km/h加速が3.8秒、最高速度は303km/hに達するという。
BMW M社による3L直6ターボをベースに、過給器や冷却システムをアルピナが独自にチューン。パワーよりトルク重視の特性はまさに同社の哲学の現れ。
一方、シャシーは新設計のスプリングとスタビライザー、マッピングを最適化したアダプティブダンパーによってスポーツ性とコンフォート性の両立を図っている。
高品質なラヴァリナレザーを手縫いで仕上げたステアリング。その奥のフルデジタルディスプレイはアルピナ専用デザイン。
スタートしてほどなく、驚くほどスムーズでスピーディな加速に惚れ惚れする。それもそのはず、0→100km/h加速でいえば、メルセデスAMG C63(4秒)やアウディRS4アバント(4.1秒)を凌駕しているのだ。アウトバーンでの超高速走行でも、B3はトップスピードで先の2台(C63=290km/h、 RS4=280km/h)を引き離してみせる。
サポート性とコンフォート性を両立するスポーツシート。もちろんトリムやカラー、パイピングなどの加工にも柔軟に対応してくれる。
洗練されたシャシーがもたらすライドコンフォートも、まさにアルピナの真骨頂。いたずらに引き締めすぎず、どこかしなやかさすら残す絶妙なセッティングはまさにスペシャリストの仕事。とはいえ、これに先立ちサーキットでのスポーツ走行では、タフでコンペティティブなB3のもうひとつの顔を見せつけられた。専用開発のピレリPゼロは類稀なグリップ性能を、そしてフロント395mm、リア345mmのブレンボ製ディスクは、自重1880kgのセダンにフェードが無縁なことも証明して見せた。まさに余裕綽々、コントローラブルのひと言に尽きる。
南ドイツのブッフローエで生産された正規モデルの証となるのがシリアルプレート。センターコンソールのiDrive後方に貼られる。
今回、新しいB3を走らせてみてあらためて感じたのは、どんな場面でもストレスフリーでいられたということ。たとえ街中で渋滞に遭っても、サーキットでタイムアタックに臨んでも、ドライバーの思う通りに応えてくれる。その本質である「ドリームカー・フォー・エブリデイ」は、他のアルピナモデルと等しく備わっているのだ。
アルピナ・ダイナミック・デザインの鋳造ホイールに専用開発となる19インチのピレリPゼロを組み合わせる。20インチはオプション。
空力を考慮した複雑なリアバンパー形状。その下のディフューザー左右からオーバルのエキゾーストエンドが2本ずつ顔を覗かせる。
リポート=キムラ・オフィス/Kimura Office フォト=アヒム・ハルトマン/AH.Hartmann ルボラン2020年9月号より転載