ジムカーナやスーパー GTなどで活躍し、数々の栄冠に輝く名ドライバー。山野哲也選手にとって欠かせない相棒がレイズ製ホイールだった。今回、モードフォージドという新境地を開拓したVMF C-01の感触を訊いた。
高性能ホイールの条件は“時差”を感じさせないこと
「性能のいいホイールは、それが鮮明に伝わってくる。性能が低いと常に“時差”を感じるのです」
開口一番、山野哲也選手は言った。ジムカーナからスーパーGTまで、あらゆるカテゴリーで活躍してきた百戦錬磨のプロドライバーは「ホイールの性能差を、いつどのように感じ取るのか」という質問に対しての回答だった。
「操作に対して忠実に、サスペンションやタイヤが理論通りに動いてくれれば、クルマは意のまま気持ちよく動くもの。しかし、ホイールがたわむことで、頭の中で描いた動きと、実際の動きとの間に微細な“時差”が生じる。ホイールがたわめば、次の瞬間にはそれが戻ろうとする力も働くので、さらに動きを邪魔してしまう」
昔に比べてボディが大きく重くなり、同時にホイール径も拡大し、タイヤの性能が飛躍的に上がった今、その狭間にあるホイールは、特にこの剛性が求められている。剛性が足りなければ、ホイールのたわみによって時差が発生し、サーキットではタイムアップを阻害するし、ストリートなら人間が気持ちいいと感じるような意のままのフィーリングを失わせる。
剛性だけでなく、重量もまた時差を発生させる。段差などを通過する際に、タイヤは上下動を繰り返して路面に追従するが、ホイール(ばね下重量)が重ければ重いほど、接地圧の変化が大きくなるし、上下動が収まりにくくもなる。これは走行性能はもちろん、乗り心地にも悪影響を及ぼすという。
強度および剛性と軽量性能。一般的にはトレードオフの関係にある要求性能を高い次元で両立させ、ずっと山野選手を支えてきたのがレイズだった。レースの場でともに闘って30年以上。日々を過ごす彼の愛車にも率先してレイズ製ホイールが取り入れられる。
とりわけ今のお気に入りは、アウディRS5クーペに装着したVMF (ベルサス ・ モードフォージド)C-01だった。それは山野選手がレースフィールドで好むボルクレーシング勢とはひと味違う、ドレスアップ性に満ちたヒネリ系デザインを持つ。レイズ持ち前の鍛造製法を活かした高性能ドレスアップホイールとして生まれた。薄皮を隔てた一枚奥にレースで鍛えられた熱血系技術を潜ませておきながら、それを声高には主張せずに、エレガント&ドレスアップを表現した意欲作である。最新スーパースポーツに匹敵する動的性能を有しながらも、その高性能を声高には主張しないエレガントな造形と、2ドアクーペらしからぬ実用性の高さ、静粛かつ快適な乗り味を持つRS5なんて、まさにVMFの世界観と一致する。
「デザインはとても気に入っています。それはどこか“鳥の骨”を思わせるような無駄のない造形美。小さな身体で縦横無尽に大空を駆け巡り、数百メートルの上空から凄いスピードで音もなく着地してそれでも平気な顔をしている鳥って、自然界で長い年月をかけて進化していったひとつの究極だと思っていたんですが、VMF C-01はそれに近しいものがある」
人間の脳みそをフル回転させて開発した最新鋭の飛行機だって、小鳥の動的性能には叶わない。それでも、レイズ持ち前の技術をフル動員させたその先に、まるで小鳥のように優しく強く、そして美しい造形が芽生えた。そんな雰囲気を山野選手は感じていた。
実際にVMF C-01は、ドレスアップホイールだからといって、冒頭に挙げた“時差”を感じさせる場面は少ないという。さらに、乗り心地の向上やロードノイズの低減を求めたという意欲作でもある。レイズ最新の解析技術や実走行テストによると、クルマの快適性を損ねる要因となるNVH(ノイズ・バイブレーション・ハーシュネス)の低減を念頭に置かない従来品に比べたら、静粛性が8.3%向上したというデータがある。それは音もなく飛び立ち、舞い降りるような鳥の所作に似ている。
「厳密な比較をしたわけではないですが、足まわりからのインフォメーションを感じると、明らかに静かで上質になっているように感じます。すっと足もとがついてくるような、 “時差”を感じさなせい性能の上に成り立つこのフィーリングは本当に気持ちがいい」
VMF C-01はドレスアップと動力性能を両立させつつ、そこに快適性能まで盛り込んだという意味で画期的なもの。そして何よりも、今まで数々のレースシーンで経験を積んできた男だからこその、とても重要な視点があった。
「いかに時差がなくても、魔法の絨毯のように静かで快適でも、結局は安心して踏めなければ意味はない。レイズ製ホイールにはそれが当たり前のように宿っている」レイズとともに数々の土壇場で勝ってきた山野選手が最後にそう述べた言葉が印象的だった。
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