クルマ酔いに似た症状にはエンジン音と振動、タイミングが影響
VR(仮想現実)技術は、アミューズメントパークのアトラクションや自宅で楽しむ映画、ゲームといったエンタテインメント、自動車教習所の教習や住宅会社による設計図面の仮想体験などで活用領域が広がっている。しかしその一方、VRを体験した人が車酔いにも似た「VR酔い」を引き起こす症例が多数報告され、さらなるVR技術の発展・普及に向けての課題のひとつになっている。
「エンジン音と、振動の大きさやタイミングを同期させるとVRを含む一人称視点での映像酔いを大幅に低減できる」。5月中旬、そうした研究の成果をネイチャーリサーチ社のオンライン科学ジャーナルに発表したのは、静岡大学(板口典弘助教・宮崎真研究室)とヤマハの共同研究グループだ。
VR酔いは、学術界でも関心の高い研究領域だけに、この論文は世界中の研究者や技術者から大きな注目を集めた。両者の実験では、室内でスクーターに乗った被験者(80人)が、ヘッドマウントディスプレイを装着してVR走行をした際、酔いの程度を20段階で評価する方法で行なわれた。この結果、風景映像に音と振動の両方を合わせた場合のみ、酔いの低減効果が見られることが明らかになったという。
「当社では、二輪車の操縦安定性の研究に以前から乗車型のシミュレーターを用いてきました」と話すのは、共同研究グループの一人、ヤマハの基盤技術研究部の三木将行さん。「仮想世界に構築したさまざまな道路環境を、さまざまな製品で走ることができますから、ライダーと車両の関係を明らかにしていく研究には非常に重要な設備です。当社独自の開発思想『人機官能』をより深めていくためにも、また『ハンドリングのヤマハ』と高く評価いただいている強みの背景にもつながっています」
しかし、そこにはVR酔いという課題もあった。研究中に酔ってしまうテストライダーが少なくなく、この課題を解消したいヤマハと、この分野の研究に発展性を見出した静岡大学の宮崎研究室が出合って共同研究がスタート。「それまでも『音がないと酔いやすい』とか、『振動も酔いの低減に効果がありそうだ』といった経験に基づく仮説が社内にも存在しましたが、明確な根拠は持っていなかった」とは前出の三木さん。
さらに三木さんは、「現在も進行中の本研究が「『VR酔い』の課題解決につながれば、さまざまな技能や感性を持ったライダーが、開発の初期段階から仮想上の試作車を世界中の道路で走らせることが可能になります。それは、より効率的に、よりお客様の使用実態に近い高性能・高機能、そしてヤマハらしい製品開発へと結び付いていくはずです。また、ソーシャルVRや遠隔コミュニケーションの発展にも貢献できると考えています」と続けた。
静岡大学リリースURL
https://www.shizuoka.ac.jp/news/detail.html?CN=6399