すでに日本でも予約販売が開始されている8世代目となる新型コルベット。その最大のトピックは既報の通り、これまでの駆動方式がFRからMRへ変更されたことだが、その他にも、コルベット史上初の右ハンドルの採用をはじめ、数々のプロダクトハイライトが搭載されている。そんな新型コルベットのハイライトを改めて解説していこう。
上陸が待ち遠しい無二のスポーツカー
この2月にケンタッキー州のボーリンググリーン工場で本格生産が始まった新型コルベット。その矢先のコロナ禍ゆえ影響は免れないだろうが、すでに400台以上のプレオーダーが入っている日本へのデリバリーは、来春の予定となっている。1953年に発表された初代から数えて8代目=C8。同じ名前で作り続けられるスポーツカーとしては世界で最も長い歴史を持つ銘柄の完全刷新は、かつてなくドラスティックなものだった。
MR=リアミッドシップレイアウトの採用は、過去幾つかの世代で目論まれては消えていった企画でもある。が、今回はその真剣度はひときわだった。C5世代以降、レースはコルベットの重要なマーケティング活動に位置付けられ、その戦績によって国際的な知名度を飛躍させてきたわけだが、激化するライバルとの戦いの中、FRではトラクション性能が限界を迎えていた。コルベットにとっては長年の悲願であるミッドシップ化は、トラックでのパフォーマンス向上が引き寄せた側面も大きい。
当然ながら先代から共有されるパーツは1点もない完全なる刷新だが、真新しいアルミスペースフレームに搭載されるエンジンは6.2LのLT2、つまり代々のコルベットが搭載してきたスモールブロックのファミリーとなる。OHV・V8と聞けば、なんでそんな旧いメカをわざわざ新しいシャシーに積むのだかと訝しがる向きもあるかもしれないが、OHVは動弁機構がエンジン下部に集中的に配されるメカニズムがゆえシリンダーヘッドが小さく、パッケージの自由度や低重心化に大きく寄与する。逆にいえばコルベットにしか採用できないメカニズムということも出来るだろう。
これに組み合わせられるギアボックスはGMとトレメックが開発・製造する8速のDCTとなる。こちらは初搭載のメカニズムだが、現状の637Nmはもちろん、各部の強化により1000Nmクラスのトルク耐性も視野に設計されているというから、将来的には現れるだろうハイパフォーマンスモデルへの搭載も想定されているということだ。残念ながらMTの設定はないが、米国市場の反応にネガティブなものは少ないという。
コルベットとしては初の右ハンドルのモデルが設定されるのに合わせて、C8の日本仕様は右ハンドルが標準設定となる。グレード体系はベースプライスの2LTとその上位にあたる3LTのふたつだが、両グレードの機能面の差異といえば擦過防止のフロントリフターが装着されることくらいで、あとは内外装にカーボンのオーナメントが加わることや内装のレザーラップ化、リクライニングバケットタイプのシートの採用など、加飾面での差異が大半を占める。つまり走りのパフォーマンスにおいてはまったく同等ということだ。
日本仕様のC8には、米国ではオプションとなるZ51パフォーマンスパッケージが標準装着される。Z51はシャシーポテンシャルを高めるコルベットにおいての伝統的なオプションコードで、その内容はブレンボのモノブロックキャリパーや大径ローター、第四世代のマグネティックライドシステム、多板クラッチを用いた電子制御LSD、パフォーマンスエキゾーストや強化クーリングシステムなど多岐にわたるものだ。ミッドシップ化で運動性能を大きく高めたC8には必須の装備といえるだろう。
C8の走りは、人々がコルベットという名前から想像する無骨で粗野な印象とはまったく逆で、驚くほどに洗練されている。平時の丸い乗り心地や整理された音・振動など快適性についてはポルシェ911にも比肩するかというほどで、サーキットドライビングではとても初出のミッドシップとは思えないほどの穏やかな挙動変化と粘り強く御しやすい限界特性を備えていた。一方で、前後に大容量のトランクルームを備えるなどGTカーとしての伝統にも充分配慮がなされている。何より、エンジンを掛けた時に「後ろ」から聞こえてくるサウンドは、紛れもなくコルベットのそれだ。C8は伝統と先進、優しさと鋭さを併せ持つ無二のスポーツカーと断言できる。