アウディのBEV第1弾として登場したe-tronに早くもバリエーションが追加設定。ネーミングからも分かるように、クーペ風のルーフラインとリアハッチが与えられた、いわゆるSUVクーペとなる。ただし、ハードウェアを含めた基本的な成り立ちはe-tronとほぼ同一。では、その独自性はボディタイプだけなのかというと……。
積極的に選ぶ価値がそこにはある
アウディ初の本格的なBEV、e-tronの本格的なデリバリーが昨年後半からようやく始まった。ドイツ市場では昨年3578台が出荷されてBEVカテゴリーでは総合6位、今年の第1四半期にはすでに1884台が出荷され4位に上昇している。もちろん、市場全体から見ればBEVの割合はまだ5%以下だが、環境保護に対する意識の高まり、そして政府からの補助金などに呼応して、新型コロナウィルス感染の収束後、まだまだ伸びることが予想される。
スリーサイズやホイールベースはスタンダードのe-tronとまったくの同値。クーペ風の弧を描くルーフラインがスポーツバックの証だ。
そこでアウディは、e-tronシリーズの第2弾としてスポーツバックを追加設定、3月からその受注をドイツでスタートした。
スポーツバックのボディサイズは、全長が4901mm、全幅が1935mm、全高が1618mmで、ホイールベースは2928mm。実はこのディメンション、スタンダードのe-tronとまったくの同値となるが、ルーフラインがなだらかに後傾していることで、後席のヘッドルームはスポーツバックのほうが2cmタイトになる。ただし、実際には身長180cmの大人2名が収まっても十分な余裕が確かめられたとお伝えしておこう。
リアビューカメラ・ミラーシステムは1540ユーロ(約18万円)のオプションで、ダッシュボード両端に7 インチのOLED画面を配置。
搭載されるリチウムイオン電池の容量は95kWhで、車両前後のモーターを駆動して最高出力300kW、最大トルク561Nmを発生。カタログデータによると0→100km/h加速は6.6秒、最高速度は200km/hで制御される。また、最大航続距離はWLTPモードで436km以上とされ、リアルワールドではこの80%程度と考えたとしても、実用上はまったく問題ないといえる。
充電口はフロントフェンダーに配置。 150kWの直流急速充電システム(CCS)を使えば30分で80%の充電が可能となる。
さて、いうまでもなくスポーツバック55クワトロはBEV特有のスムーズで力強い加速を披露する。アウトバーン上ではすでに100km/hを超えているというのに、高まるのは風切り音だけ。サウンドを伴わないがゆえややエモーションに欠けるのは致し方ないが、実は現在、アウディは自ブランドにマッチした人工サウンドを本気で考えているようだ。
フロントのコンパートメントには3種類の充電ケーブルが収納されており、 CCSから家庭用電源までの充電までをカバーできる。
一方、やや路面の荒れた一般路であっても、約2.5トンの自重と20インチタイヤにも関わらず、ウルトラスムーズなエアサスペンション(オプション)により、パッセンジャーは常に快適で環境に優しいドライブを楽しむことができる。ワインディングではフロア下に配置された電池がもたらす低重心と、リニアで路面からのフィードバックが正確な電制ステアリングのおかげでスポーティなドライビングすら可能にしている。
ルーフの傾斜により後席の頭上空間はスタンダードモデルに対して20mm狭いとされるが、それでも居住性は必要十分以上といえる。
ちなみに、このスポーツバックには新しいデジタルマトリックスライト(DML)がオプションで用意されている。ユニークなのは、強力なLEDライトにより、路面だけでなくガレージドアなどに様々なモチーフを照射することができること。特に日本でも有効だと思われたのは、前方の路面に光の絨毯のように行先を正確に照射、たとえ霧の深い夜間でも自分だけでなく周囲の交通にも注意を喚起し、安全を確保することができる。
e-tronスポーツバックの価格はドイツで8万3150ユーロ(約975万円)と、スタンダードモデルとの価格差は最小でわずか450ユーロ(約5万3000円!) 。となれば、少なくとも私なら迷うことなくスポーツバックを選択するだろう。実用性の差はミニマムで、何よりも毎朝美しいクルマを見るのが楽しみになるはずだからだ。
インテリアもe-tronから変更なし。ドライバー正面にはバーチャルコクピット、ダッシュセンターにはタッチスクリーンが据えられる。