フットワークのケイマン、軽快感が魅力のA110
今回試乗したスープラRZが積むのはBMW製3L直6ターボ。
このパワーユニットは、滑らかさ、サウンド、回転フィールなど、どこをとっても最高で、走りだした瞬間から「ピッと芯の通った感触」や、「適度に重量感のある内部パーツが完全バランスで回っている」といった珠玉の感触を余すところなく伝えてくる。積極的に回していったときのハイピッチで艶やかなサウンドも素敵だが、低中回転域を使ってゆったり走っているときでも、圧倒的な上質感の背後に隠れた高性能を確実に感じ取れるのがいい。
718ケイマンの2Lフラット4ターボにそこまでの質感を求めるのは酷だろう。極上の滑らかさと管楽器のようなハーモニーを聴かせる自然吸気フラット6と比べると、トーンは一段低くなり回転フィールにもわずかなザラつきがある。逆に言えば不満はその程度で、フラット6の魔力に触れたことのない人にとっては十分に魅力的なエンジンではある。むしろ718ケイマンの真の魅力はフットワークにある。駐車場から幹線道路に出る際、わずかな段差をトンッと降りたときの「うわっ、なにこの滑らかな足の動き?!」から始まり、街中での快適性、高速道路でのフラット感、ワインディングロードでの自由自在なハンドリングなど、オーナーはあらゆるシーンにおいてポルシェマジックに触れ続けることになる。スポーツカーとしてはもちろんのこと、一台のクルマとしてもケタ外れの完成度なのだ。
それに対しA110Sのキモは圧倒的な軽快感にある。A110に対しサスペンションは50%も締め上げられたが、乗り心地は許容範囲内。持ち前の軽快感も健在で、細かいカーブが連続する九十九折りをちょっと信じられないほどのペースで駈けぬけていく。とくにS字の切り返しでノーズがスッと動いてスッと止まる素直さは感動的と言っていいほど。エンジン自体にこれといった特筆すべき特徴はないものの、トップエンドの伸び感と中回転域のトルクのツキは大幅に増している。数値的にはプラス40psだが、フィーリング面では間違いなくそれ以上の価値を上乗せしている。
A110Sより410kg、718ケイマンと比べても130kg重く、なおかつノーズに重い直6を積むスープラはさすがにこうはいかない。ステアリングのレスポンスは高めの設定で、普段使いでは一見シャープに思えるが、重いものが動き、止まるときにはどうしたって慣性の影響がでる。右に左にと慌ただしくステアリングを切るような場所では慣性を常に意識しながら運転することになる。
そんなスープラが得意とするのは中高速コーナーだ。サーキットではリアの滑り出す動きの速さが気になるものの、ESCをオンにしておけば問題なし。広いコースで340ps/500Nmを存分に解き放って走るのは最高に楽しい時間だ。そして何より、一般道に出てゆったり走っているときの充実感は、間違いなく他の2台を凌ぐ。
パッセンジャーとの会話を楽しみながら、あるいは音楽を聴きながら、とくに飛ばすわけでもなく流していても気持ちがいい。それもまたスポーツカーにとって重要な要素であり、そこにはエンジンの魅力が大きく貢献するのだということを改めて実感した。誤解を怖れずいってしまえば、スープラRZには911的な要素が備わっている。そしてそんなクルマが他の2台より大幅に安い価格で手に入るというのは、やはりすごいことだと思うのだ。
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