911シリーズのなかで双璧の存在といえるのがGT系とターボ系だ。前者をセミレーシングのトップアスリートとするなら、後者はマルチタレントのスーパースター。今回は、992に設定された新型ターボをドイツ本国で初試乗。しかも、試乗車は高性能版の「S」でカブリオレという華も実もある仕様! 早速、気分上々で走らせてみた。
緻密なファインチューンで50psのパワーアップを達成
昨年から市場投入発売されたタイプ992の911に、待望のトップモデルが追加設定された。いまやポルシェのアイコンとなっている「ターボ」のルーツは、いうまでもなく1974年のパリ・モーターショーに登場した930ターボ。およそ半世紀前に3LボクサーエンジンにKKKターボチャージャーを装着、最大過給圧0.8バールを得て最高出力260psを発生した。いまでは驚くに値しない数値だが、当時フェラーリ初の3LV8が255psだったことを考えれば、その高出力に誰もが驚愕したのは想像に難くないだろう。
今度のターボの加速フィールは思わず我を失ってしまうほど。キャンバストップの開閉に要する時間は12秒とスピーディ。50km/h以下であれば走行中でも操作を受け付けてくれる。
あれから46年、最新の992をベースにした7世代目911ターボのステアリングを握る機会を得た。煉瓦造りの本社広報部でキーを受け取り駐車場へ向かうと、そこにはシルバーメタリックのボディに真っ赤なソフトトップを組み合わせたターボSカブリオレが筆者を待ちうけていた。
3.8Lボクサー6ツインターボは650psと800Nmを発生。パワーウェイトレシオは2.6kg/ps、0→100km/h加速は2.8秒!
エクステリアデザインは、ちょっと見ただけではスタンダードモデルと見分けがつかないが、フロントエンドの左右エアインテークを大型化。3枚のフィンの角度を変えることによって空気の流れを変え、空力抵抗を抑え、ダウンフォースを発生させる。一方、リアウィングも991に対して大型化され、フロントスポイラーと合わせてダウンフォースは最大で15%増加しているという。
ターボ専用のフロントスポイラーとリアウイグによりダウンフォースは15%向上。Cd値はクーペ/オープンともに0.33をマークする。
992ターボに搭載される水平対向6気筒エンジンは、ベースの3Lからボアを91mmから102mmへと拡大、ストロークは76.4mmのままとする典型的なショートストロークタイプで、総排気量は3745cc。すなわち1気筒当たりの排気量は624ccで、これはスズキの単気筒サヴェージ6台分に相当する。また、タービンブレードの径は5mm大きくなって55mmへ、コンプレッサー側は3mm拡大されて61mmに。さらに、タービンの回転は同方向ではなく、それぞれが逆方向へ回転して流入効率の改善に貢献している。エンジン開発担当のマチアス・ホーフステッターは「今回の50psのパワーアップは、おもに拡大したターボチャージャーとエアフローの高効率化など、緻密なファインチューニングによって達成された」と語っている。
ピレリPゼロはフロントが20インチ、リアが21インチのミックスサイズ。PCCB(ポルシェ・セラミック・コンポジット・ブレーキ)を標準装備。
シュツットガルト郊外のツッフェンハウゼンから、アウトバーン87号線を東に行きヴァイブリンゲンへ向かう。その先にある丘陵地帯は、筆者が学生の頃に中古の911で駆け回った懐かしい場所だ。