あらゆるシーンでまさに余裕綽々
今回のテストで個人的に興味を抱いていたのは、タイカン・ターボSと911ターボSのダイナミック性能の違いだ。もちろん前者はBEV、後者コンベンショナルなICE搭載モデルで、タイカン・ターボSのシステム出力は625ps、最大トルクは950Nm。カタログ上では0→100km/hが2.8秒、最高速度は260km/hである。一方、911ターボSの最高出力は650ps、最大トルクは800Nm、そして0→100km/hは2.7秒、最高速度は330km/h。つまり、カタログ値でいうと2台は特に常用域ではほぼ同格のパフォーマンスを有していることになる。大きな違いはタイカンが2220kg、911ターボSカブリオレが1710kgと、実に車両重量では510kgもの差があるということだ。
では、実際の加速フィールはどうか。タイカンのスタート直後の加速Gはドライバーが身構えるチャンスを与えないほど強烈なのに対し、911ターボはたとえばジェットコースターが急下降するときのホンのわずかなタメのような一瞬がある。もちろん、そこからの加速はまさに圧巻で、カタログによる160km/hまでが6秒フラット、200km/hまでが9.3秒というデータに偽りはない。実際、アウトバーン上では、まるで終わりが見えないような加速フィールに我を失いかけたほどだ。
そんな超高速域での直進安定性は、ホイールベースが2900mmと450mm長く、バッテリーをフロア下に置く低重心のタイカンのほうが有利だが、911ターボも洗練された空力特性と後輪ステアのおかげで、勝るとも劣らない盤石のスタビリティを発揮してくれる。スピードメーターはあっという間に280km/hをマークするが、スロットルにはまだ余裕がありカタログ上のトップスピードには間違いなく到達するに違いない。
フロントに420mm×40mm、リアに390mm×32mmサイズのディスクを持つセラミックコンポジットブレーキ(PCCB)は、ターボエンジンの加速と同じように驚異的な制動力を発揮するので、安心してハイスピードクルージングを楽しむことができる。
さて、前述した丘陵地帯に到着したところ、さすがに半世紀も経つと道幅は広くなり、すっかりきれいに舗装されていた。もちろん最新のターボには最適のコンディションで、ハイスピードなコーナリングを存分に楽しむことができそうだ。そこで、50km/hまでであれば走行中でも12秒で開閉可能な真っ赤なキャンバストップを開け放ち、同時にドライブモードをスポーツプラスにセットして、ワイナリーの間を縫うように走るワインディングに挑戦する。
ターボシステムのエアフローを改良した3.8Lボクサー6のピックアップはVTG(可変タービンジオメトリー)の効果もあり、スロットルの踏み込みに対してまるでミリセカンド単位で食いつくような反応を見せ、パワーが増大してゆく。ターボラグはもはや石器時代に追いやられた感じで、NAにこだわる必要もなくなったといえるほどだ。
テスト車が履いていたタイヤはピレリPゼロで、フロントが255/35R20、リアが315/30ZR21。ホイール径も異なる本当の意味でミックスサイズだ。そのロードホールディングとトラクション性能は想像以上で、まさに正確無比。操舵力が最適な電動ステアリングと後輪ステアの組み合わせにより、まさにドライバーの意のままにコーナーの連続を軽快なステップを踏んで駆け抜けていく。
ステアリング特性はスポーツカーとしてはまさに規範的で、コーナーでプッシュしていくとわずかに前輪が外側に向かうが、さらに踏み込めば前後輪に最適なトルクが配分され、狙ったラインを意のままにトレースしていける。さらに1速が低く、8速が高くなった8速PDKは各ギアの受け持ち範囲が広くなり、シフトワークにも余裕を生んでいる。
カブリオレはクーペよりも70kg重いが、パフォーマンス上のハンディはもちろん、ボディ剛性への影響もほぼ感じられない。ターボSカブリオレのドイツでの価格は23万1778ユーロ(約2730万円)で、クーペよりも1万3597ユーロ(約160万円)高い。しかし、耐候耐久性の高いキャンバストップはオールシーズンに対応するので、このエクストラは期待以上の満足度をもたらすはずだ。
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