【国内試乗】「ベントレー・フライングスパー」威風堂々のプレステージサルーン

最新テクノロジーとブリティッシュネスの融合

すごく極端な言い方をすれば、フライングスパーは100mも走れば従来型からの違いが感じ取れる。まずはボディの剛性感。従来型に大きな不満はなかったものの、新型のほうがさらにしっかりしていて、塊感のようなものがより強く伝わってくる。全長は5mを超え車重も約2.5トンとなる大柄で重量級な個体であるにもかかわらず、剛性感が高いとこれが小さく軽く感じる。ボディが頑強だと、当然のことながら乗り心地にもいい影響がもたらされる。エアサスは、ばね上の動きを抑え込むのようなセッティングにはなっておらず、適度な動きを寛容しつつばね下で路面からの入力をできる限り吸収する。身体が動いたとしてもそれはゆったりとした振幅で、決して尖った突き上げではない。そんな乗り心地の印象変化がどの速度域でも少ない。

公表値では0→100km/hが3.8秒、最高速は333km/h。実際の加速感は数値を上回ると思うほどだが、振る舞いはあくまで紳士的だ。

つまり乗り心地は総じて快適至極なのだけれど、静粛性も同じように速度依存度が低い。静かで快適なキャビンの環境が30km/hでも100km/hでもほとんど変わらないというのはなんとも不思議なものである。右足の動きひとつで900Nmものトルクが発生するのだから、その加速そのものは実に凄まじい。にもかかわらず、キャビンは平穏な空気で満たされているので、実速度と自分の気持ちの乖離が大きすぎてびっくりすることが何度もあった。

W12ツインターボエンジンはフロントのバルクヘッドに食い込むような位置に搭載。前後重量配分を考慮したレイアウトになっている。

様々な電子デバイスのサポートを受けているとはいえ、フライングスパーはドライバーの思い通りに自然に反応してくれる。操舵応答遅れはまったくないし、ピッチとロールの動きがとてもスムーズで、想定外の挙動も見られない。その上、操縦性もパワートレインも適度なダイレクト感がある。大型の4ドアサルーンでありながら、ドライバーに「操縦している」と実感させる乗り味を有しているところがなんともベントレーらしい。

ホイールは21インチが標準で22インチはオプション。フロントブレーキの直径は420mmに拡大された。キャリパーにはロゴが入る。

内外装のデザインは歴代のベントレーに準じて、様式美や機能美に溢れている。めっきの加飾や本革やウッドパネルの使い方などはまさに適材適所、やり過ぎ感も物足りなさもなく、素材の特性がふんだんに引き出されている。こうした英国の伝統的流儀みたいなものが、ポルシェと共通のプラットフォームの上に乗っているという、なんとも贅沢なクルマである。

フォト=柏田芳敬/Y.Kashiwada ルボラン2020年6月号より転載

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2020/05/27 12:00

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