【安東弘樹氏が試乗】「ルノー・メガーヌRSトロフィー vs アバルト124スパイダー vs ロータス・エリーゼ vs VW up! GTI」MTモデルの魅力に迫る!

果たして今回のベストMTモデルは?

「アバルトの124スパイダーは、ターンパイクみたいなところではロードスターよりトルクがあっていいですね。ただ、124スパイダーもロードスターも、ペダルのオフセットがどうしても気になってなかなか慣れないですね。シートとステアリングの位置関係も、僕のドライビングポジションには合わない。ストロークが少なく節度感のあるシフトフィールなので、MT車としての運転そのものは楽しいけれど、どうにもポジションが(笑)。それでも、今回の中では一番よかったかもしれません。エリーゼに乗るまでは(笑)」

LOTUS ELISE HERITAGE EDITION/ロータス・エリーゼ ヘリテージ・エディション/試乗車はエリーゼ220をベースにした“ヘリテージ・エディション”と呼ばれる限定モデルで、ストライプの入ったエクステリア、専用カラーのインテリアともに特別仕様となっている。ディーラーオプションでデタッチャブルハードトップも選べる。

実は安東さん、今回初めて試乗したエリーゼにすっかりやられてしまい、その興奮が冷めやらぬうちに話をうかがったので、他のクルマの話にもちょいちょいエリーゼの名前が登場した。
「エリーゼから乗り換えると、メガーヌでもヒップポイントが高いと感じてしまいました(笑)。このトロフィーに乗って感じたのは、FFの大パワーのクルマには相応の運転スキルが必要だということです。お恥ずかしながら、試乗を始めるときにホイールスピンさせてしまいました。そんなにガスペダルを踏み込んだつもりはなかったのに、これでちょっとナーバスになった。丁寧に扱わないと暴れるかもしれないと思ったんです。前輪だけであのパワーをコントロールするのはなかなか難しい。クラッチペダルも結構ストロークがあって、これでニュルでタイムを出す技術ってスゲーなと感心しました。僕には短時間で手なずける自信がない。でもこれを手なずけたらきっと面白いんだろうなとも思う。約500万円の価格は安くはないけれど、この内容を鑑みればリーズナブルかもしれませんね」

LOTUS ELISE/ロータス・エリーゼ

アップGTIの印象も決して悪くなく、ご自身の昔の愛車を思い出したそうだ。
「音が意外にいいですね。でも、ペダルもシフトもストロークが長いし、アップライトなシートポジションなんでシフトレバーがすっごい下のほうにあると感じてしまいます。元々スポーツカーとして作られた訳ではないので仕方ないとは思いますが、シフトレバーにもう少し節度感があるときっともっと楽しくなるでしょうね。ボディサイズと動力性能はちょうどいいですね。僕が初めて買ったシティターボIIを思い出しました。ドッカンターボだったけれど、僕にはちょうどよくてクルマの楽しさを学びました。だからアップGTIみたいなクルマに最初に乗ると運転が好きになるかもしれない。腕に覚えのある人が乗ってもそこそこ楽しめるだろうし、運転しているうちにジワジワ楽しくなってくる。ペダルの剛性感とか、さすがドイツ車ですね」

VOLKSWAGEN UP! GTI/フォルクスワーゲン・アップ! GTI/アップGTIは昨年600台の限定車として登場、瞬く間に完売した。現在はカタログモデルとして再登場となり、限定車の仕様にリアビューカメラやプレミアムサウンドシステムを追加採用。“タングステンシルバーメタリック”も新採用のボディカラーだ。

そしてエリーゼである。安東さんはエリーゼの試乗のみ、2回もおかわりをした。
「ついに出逢ってしまった……。これが率直な感想です(笑)。今回、一番安全に楽しく気持ちよく運転できました。文句ないドライビングポジション、ちょうどいい動力性能、絶妙なシフトフィール、すべてが整っていて、究極のバランスマシンだと感激しました。見た目からスパルタンでドライバーに厳しいクルマだと想像していたんです。でも実際にはなんて優しいクルマなんだろうと。大変なのは乗り降りと荷物スペースくらい。いったんシートに収まってしまえば、あとはもう永遠にドライブしていたくなる(笑)。あのカチッカチッとしたシフトフィールが最高です。次のポジションに吸い込まれて、シーケンシャルのようにシフトレバーを真っ直ぐ動かしているみたいに感じる。たまらんですねえ、トランスミッションおたくとしては(笑)。エンジンのレスポンスもいいんです。回転が勝手に合うというか、無用な気を遣う必要がまったくありませんでした。

VOLKSWAGEN UP! GTI/フォルクスワーゲン・アップ! GTI

詰まるところ、MTで気持ちいいクルマはシフトフィールだけがよくてもダメで、すべてのバランスが揃ってはじめて気持ちいいと感じるんだと、エリーゼに乗ってあらためて認識しました」
安東さんは911のMTを愛車にしているが、この取材を終えて心配なことがあるという。
「家に帰って911に乗ってガッカリしたらどうしようかと(笑)。サラリーマン時代に大借金してかなり無理して911を買ったのは、その当時の僕にとって完璧なMT車だったからなんです。今日は後に振り返ってみたときに、僕の自動車遍歴のターニングポイントになったかもしれません」

テスター=安東弘樹/H.Ando フォト=郡 大二郎/D.Kori ルボラン2020年4月号より転載

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