ボルボS60はクルマに乗って走ることの普遍的な魅力や心地よさを与えてくれるスカンジナビア仕立ての最新セダンだ。今回は、現在ラインアップする3つのパワーユニット、T4、T5、T6でロングランテストを行い、各モデルの美点や魅力にじっくりと向き合った。
エントリーグレードながらT4の満足度は高い
SUVが全盛のこの時代にわざわざセダンに乗るのはいかにも酔狂な行為かもしれないが、だからこそ造り手にとっては腕の見せ所でもある。低全高ゆえの運動性能の高さや、SUVにはない端正なスタイリングなどといった、セダンならではの価値を最大化すべく腕によりをかけてくるのだ。とくにプレミアム・ブランドはその傾向が強いが、それは自動車の基本形であるセダンを大切にすることが、ブランド力の誇示に直結するからだろう。
運転席からの車格の把握、ミラーや計器類の見え方など、どれも容易に行えることで心地よいロングドライブを可能にしてくれた。乗り心地と安定性の高さに「さすが、セダン」と唸ってしまった。
新型ボルボS60も、まさにそういった使命を背負ったかのように気合いの入ったモデルチェンジを敢行してきた。いまボルボは飛ぶ鳥を落とす勢いで快進撃を続けているが、時代が後押しするSUVと、もともと得意としてきたステーションワゴンが人気の中心。セダンでもその勢いを維持できるのかどうか、ここぞ正念場だということを自覚しているのだろう。
T4/最高出力190ps、最大トルク300Nmを発揮するS60のエントリーグレード。市街地などの常用回転域ではゆとりのある走りが満喫できた。
日本でのラインアップはT4 モメンタム、T5 インスクリプション、T6 ツインエンジン AWD インスクリプションの3種類。パワートレインはいずれも直列4気筒2Lをベースにそれぞれ独自のパフォーマンスが与えられている。今回はパワートレイン及びシャシーの仕様の違いが、走りにどんな違いをもたらすのかを確かめるべく、約400kmの比較試乗を行った。
T5/最高出力254ps、最大トルク350Nmを発揮するガソリンターボ。高速道路での移動では、俊敏性の高い走りを実感することができた。
T4は17インチタイヤを履くこともあって、街中を走り出した瞬間から軽やかでソフィスティケートされた乗り心味が印象的だった。路面が荒れていてもゴツゴツとしたところがまったくない。扁平率が高いタイヤは厚底シューズのように快適で、なおかつバネ下が軽いからサスペンションが大きくストロークする状況でもスムーズだ。
T6/最高出力253ps、最大トルク350Nmを発揮するガソリンエンジンと87ps、240Nmの電気モーターが駆動させるAWD仕様。
それでいて高速道路ではどっしりとしている。速度が増すに従って路面に貼り付いていくような感覚で安定感が抜群なのだ。さすがはセダン。乗り心地と安定性のバランスが高次元だ。その印象はワインディングロードに足を踏み入れても変わらなかった。
最近のボルボは新世代プラットフォームによって走りのポテンシャルが以前よりも飛躍的に高まっているものの、いたずらにスポーティさを強調することがなく、リラックスしてドライブできるモデルが多いが、S60ははっきりとスポーツセダンとして仕立ててきている。コーナーへ向けてステアリングを切り込んでいくと、あまりロールを感じさせずノーズが水平移動していくかのような鋭い回頭性をみせる。古い世代のボルボはFFの宿命でもある、前のめりなダイアゴナルロールが大きかったが、それを払拭したスポーティなハンドリングだ。
左がVOLVO S60 T5 INSCRIPTION、右がVOLVO S60 T4 MOMENTUMだ。
3台の中ではパワー&トルクが低いT4ではあるが、常用域での扱いやすさはピカイチだった。低回転域から滑らかにブーストが立ち上がり、ターボ特有のラグなどはほとんど感じさせない。バネ下の軽さもドライバビリティに効いているようでアクセル操作に対して素直にトルクが追従してくれる感覚が強い。2000rpmも回せば十分に力強く、3000-5000rpmではエントリーグレードだというのが信じられないぐらいの速さをみせる。単体で乗っている限りは「これ以上、何を望むのか?」と思うほどだ。