フォルクスワーゲンが次世代技術に7兆円投資。設備投資や研究開発費を増額する一方で、アウディやダイムラーは人員削減を打ち出す
フォルクスワーゲン・グループが今後10年間の長期経営計画を見直し、電動化へ大きく舵を切ることを明確にした。2019年11月にはカーボンニュートラル(生産段階からCO2不排出)とされる独ツウィッカウ工場で電気自動車(EV)ID.3の生産を始めているフォルクスワーゲンだが、2029年までに75車種のEVと、60車種のハイブリッド車(HV)を投入する計画を策定。その期間の累計販売台数はEVが2600万台、HVが600万台とされており、グローバルで年間約1000万台を販売するフォルクスワーゲンにおいて3割以上が電動化されることになる。
そのための投資額も莫大で、2020-2024年の5年間で600億ユーロ(約7兆2000億円)を電動&ハイブリッド化、デジタル化へと振り分ける。従来計画より振り分け額を10%ほど増加させており、そのうち330億ユーロを電動化へと投資する考えだ。研究開発への全体投資額はさほど増やすことなく電動化へ本腰を入れる構えで、この動きはライバルメーカーにとっても見過ごせないものとなるだろう。
前述の2600万台のうち2000万台はID.3から始まるMEB(モジュラー・エレクトリックドライブ・マトリクス)ながら、600万台はアウディやポルシェと共同開発するPPE(ハイパフォーマンス・プラットフォーム)としているところも興味深い。ポルシェはすでにタイカンを発売しているが、少なくない台数の高性能EVがアウディ・ブランドなどから出てくることになりそうだ。
10年かけた壮大な進化計画ともいえるが、一方で同グループのアウディがここにきて2025年までにドイツ国内の従業員の15%に当たる9500人を削減すると発表。約5万人の従業員の雇用は守りながらも早期退職、雇用抑制などで段階的に減らす考えで、同時に2工場の合理化も公表。IT関連エンジニアの雇用は2000人増員しながら工場従業員は減らすことになり、電動化の雇用への影響も現実味を帯びてきたことになる。
その動きはダイムラー・グループでも見られ、2020年11月末に同社は「合理化計画を決定」というリリースを発表。2022年までに世界で数千人を削減する計画を公表し、フォルクスワーゲンと同じく雇用抑制や管理職の早期退職などで徐々に人員削減を図っていく考えだ。
ドイツ国内の報道ではBMWグループも人員削減を考えており、ドイツの自動車メーカーも電動化やデジタル化、モビリティサービスの強化など次世代事業への展開を図る一方で、雇用減によるコスト削減に本腰を入れることになる。電動化進展の背景には、EU(欧州連合)が進める罰金も含むCO2規制強化があるが、そのために雇用が減少するという形になると、EU経済全体に大きな影響をおよぼす恐れもある。
自動車メーカーにとって人員削減によるコストダウンは利益増につながり、投資家や株主に向けての企業価値向上にはつながるが、それにともなう雇用減は地域活性化には逆行する。このジレンマをEUなどがどう解決していくのか。EU以外の地域にとっても人ごとではないだけに、2020年はEUおよびグローバルで活躍するドイツメーカーの動きが一段と注目されることになりそうだ。