雲と風が通り抜けていく熊野古道の峠道
三重県南部、熊野灘に面する御浜町と内陸の紀和町(現・熊野市)の境に風伝峠という古い峠道がある。国道311号・風伝トンネルの手前から旧道の県道62号に入り、センターラインのない狭く曲がりくねった道を登りつめたところにその峠はある。
峠を越えて白い雲が塊のまま斜面を下っていく風伝おろし。秋から春にかけての早朝、熊野灘に面する御浜町で見ることができる。
風伝峠の標高は257m。自動車道として開削されたのは昭和の初めだが、そのもとをたどると、紀伊山中に張り巡らされた参詣路「熊野古道」のひとつで、海岸沿いに延びる「熊野古道・伊勢路」から熊野本宮大社へと最短距離で抜けていく道だった。
この峠の名物として、近年注目を集めているのが「風伝おろし」である。紀伊山中で湧き上がった雲が、山並みのわずかな切れ目からあふれ出し、大きな白い塊のまま斜面を滑り降りるように熊野灘側の御浜町へと流れ出していくのだ。風伝峠はその通り道なのである。
風伝峠のある国道311号の旧道。地元の人の話によると、風が通り抜けていく峠の天気は麓の御浜町とはまったく違うらしい。
「おろし」は漢字で書くと「颪」で、もともとは冬場に山や丘から吹き下ろしてくる冷たい風を意味する。気温が高い時期、風伝峠を越えた雲はたちまち雲散霧消してしまう。そのため風伝おろしを目にできるのは秋から春にかけて、それも気温の低い早朝の時間帯に限られることになる。
アクセスガイド
紀勢自動車道(紀伊長島から南は無料/尾鷲北IC〜尾鷲南ICは未開通)と尾鷲熊野道路(無料)ができたおかげで、熊野市周辺は中京エリアからのアクセスが格段に良くなっている。名古屋西ICから風伝峠までは東名阪・伊勢道などを乗り継ぎ約200km。和歌山方面からは阪和道を南紀白浜ICで降り、そこから国道311号(熊野街道・中辺路)で約80km。白浜〜熊野本宮間は快走路だが、そこから東には未改修の険しい山道も残っている。
Data【Route 54 風伝峠】
雲海遭遇率 ★★★
雲海の季節 秋~春
◎所在地/三重県熊野市、御浜町
◎ルート/国道311号(旧道)
◎区間距離/約24km
◎最高地点/標高257m
◎冬季閉鎖/なし
【A】入鹿温泉ホテル瀞流荘
トロッコ電車もある北山川沿いの温泉宿
瀞八丁で有名な北山川(熊野川支流)に面する一軒宿。温泉は広々した内湯と露天があり、夕食には名産の熊野地鶏をたっぷりと味わえる。瀞流荘とお隣の湯ノ口温泉の間は、ここが鉱山だった時代のトロッコ電車が運行中。その坑道の線路を自分の足で漕いで走るレールマウンテンバイク(2人1組2,650円)もある。
●1泊2食付11,950円〜/熊野市紀和町小川口158/TEL 05979-7-1180
観光情報
熊野市観光協会 TEL 0597-89-0100
御浜町役場 TEL 05979-3-0505
文:佐々木 節/撮影:平島 格
『雲海ドライブ&スポット』より転載。掲載データなどは2017年8月末時点のものです。実際におでかけの際は、事前に最新の情報をご確認ください。