スポーツ濃度が高いM5コンペティション
一方のM5コンペティションは、スタンダードモデルのM5に比べ10%バネレートが高く、乗り心地はかなり引き締まった印象。快適エレガントな走りも可能なGT4ドアクーペと比べるとスポーツ濃度がかなり高い。
M5コンペティションはスタンダードから7mm車高を下げると共に、官能的なサウンドを奏でるMスポーツエキゾーストシステムを搭載することで、よりスポーティでダイナミックなドライビングを実現。エクステリアはキドニーグリルやサイドグリル、ミラーキャップ、リアディフューザーなどがハイグロスブラック仕上げとなる。
操縦性はステアリングの効きの良いシャープな味付けで、ターンイン時のノーズの動きも軽く、4WDとは思えない軽快さでノーズが向きを変えてくれる。しかも旋回中のバランスが素晴らしくいい。ただし、これはスポーツディファレンシャルの左右トルクベクタリングも少なからず効果を発揮しているはず。さらに挙動に違和感のないところが巧みなところだ。4WDの駆動配分のプログラムも、フロントタイヤの旋回グリップ力をより発揮させるセッティングになっているのだろう。
4WDモードは、「ノーマル」「スポーツ」「スポーツ+」があり、「ノーマル」はやや落ちついた操縦感覚。たとえて言えば前後駆動力配分が40:60くらいの印象。逆に「スポーツ+」はシャープな印象で、前後駆動配分が後輪寄り。20:80とか30:70くらいを基本にしているような感覚がある。多板クラッチ式のトランスファーなので、駆動トルク配分が固定されることはないのだが、あくまでもそんな感触ということだ。
加えて、アクセルオフでコーナーにアプローチするときには、フロントの駆動配分がぐっと少なくなっているようで、ステアリングの効きがよくBMWらしいステアリングのクリアなフィーリングまで味付けされている。
そして、2WDモードを選べば完全にFRになる。しかもこのセッティングが絶品なのだ。トラクション性能よりもコントロール性の重心を高めているようで、滑り出しの穏やかさ、スライドの収めやすさが抜群にいい。2WDで自由自在のスライドコントロールが楽しめる。
かつては安心安全の操縦性を持つメルセデス・ベンツに対し、精巧・正確な操縦性のBMWという図式があった。いま両社のクルマづくりは、それほど対極的ではなくなったように思えるが、今回究極のスポーツセダンともいえる2台をじっくり試乗して、やはり安定性重視のメルセデス・ベンツ、シャープで正確な操縦性のBMWのスタンスが変わっていないことがよく分かった。
ただし、GT 4ドアクーペはよりドライバーの意思を反映しながら走れる感覚が増し、M5コンペティションは過剰な緊張を覚えることなく走れるようになっている。4WD化によって圧倒的な安定性を得たことで、持てるパワーを存分に発揮できるようになった。
その結果、600psオーバーのハイパフォーマンススポーツに、コントロールする楽しさを作り出すことに成功したのだ。