コンペティションに上乗せされるプラスαのパフォーマンスとは?
Mモデルに追加されたハイチューンな「コンペティション」とは何ものなのか? サーキット走行を視野に入れながら、本誌スーパーバイザーが各モデルを分析してみた。
本誌スーパーバイザーであり、BMWドライビング・エクスペリエンスの公認インストラクターを務める萩原秀輝リポーター。当然、すべてのBMW Mモデルにも精通している。
BMWのサブブランドとして位置づけられるBMW Mは、サーキットで最高のパフォーマンスを発揮するモデルをラインアップしている。さらに、Mモデルでさえも満たされないユーザーの期待に応えるために特別仕様を用意。たとえば、3代目のM3には130kgの軽量化と17psのパワーアップを実現したCSL、現行型のM4には40kgの軽量化と69psのパワーアップを果たしたGTSを追加した。だが、これらは限定生産であり発表と同時に完売が約束されたコレクターズモデルでもあった。
BMW M2 Competition
【Specification】■全長×全幅×全高=4475×1855×1410mm■ホイールベース=2695mm■車両重量=1630kg■エンジン種類/排気量=直6DOHC24V+ターボ/2979cc■最高出力=410ps(302kW)/6250rpm■最大トルク=550Nm(56.1kgm)/2350-5230rpm■トランスミッション=7速DCT■サスペンション(F:R)=ストラット:5リンク■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク■タイヤサイズ(F:R)=245/35R19:265/35R19
手に入らなければユーザーの期待に応えたことにならない。それゆえ、現行のMモデルには+αのパフォーマンスが上乗せされたコンペティションが用意される。ただ、M2コンペティションが得たパフォーマンスは+αにとどまらない。前期型のM2はM235i(M240iの前期型)が積む高性能版のN系エンジンを搭載。それを、M3/M4と同型となる専用開発のS系3L直列6気筒ツインターボエンジンに変更し、ピュアMモデルに進化させたのだ。
BMW M社が開発したM4と同じS55型3L直6直噴パラレルツインターボユニットは、410ps/550Nmを発揮。組み合わせるトランスミッションは6速マニュアルもしくは7速ダブルクラッチ式から選べる。
最高出力は、40ps上乗せされた410psに到達。しかもM2コンペティションが興味深いのは、550Nmの最大トルクを2350〜5230rpmで発揮するなど、近年のターボエンジンとしては高回転な特性を備えるところだ。もちろん、日常的な場面であればより低い回転域でより大きなトルクが得られた方が力強さの余裕が実感しやすい。
ところが、アクセルを踏む場面ではハナシが違ってくる。力強さの盛り上がりは、パフォーマンスを実感するためのリアルな刺激となるからだ。しかも、3000rpmあたりまで回せば中回転域にかけてのこの特性が発揮される。それだけに、市街地で開きすぎた先行車との車間を調整するといった日常的な加速でも、アクセルひと踏みでMモデルらしい刺激が楽しめるのだ。
しかも、アクセルを踏み続ければ胸のすく高回転域の特性が炸裂。レブリミットは前期型M2よりも500rpm高い7600rpmとなり、7速M DCT仕様の場合はパワーの頭打ち感がなく吹け上がりもシャープだ。2速なら7600rpmまでブン回しても速度は100km/hなので、高速道路の本線合流といったシーンなどで、高回転域で炸裂するパワーに意識までスカッと覚醒してくる。
ダンパーとスタビライザーも専用設定となるが、ロール感などは前期型との大きな違いはない。ハンドリングに余計な演出がなく、ステアリングを大きく素早く切り込めばズバッと向きが変わる。ステアリング制御を「SPORT」にすれば、前期型に増して手応えがガッシリしてくるので、ダイレクトな応答性が際立つ。このあたりは、CFRP(カーボン繊維強化樹脂)製のストラット・ブレイスの新採用でフロントまわりの剛性が向上した効果ともいえる。
ブレーキにも注目したい。何と、フロントが対向6ピストンでリアが対向4ピストンとなる、新開発のMスポーツ・ブレーキを標準装備する。ペダル操作に対する制動力の立ち上がりが正確なだけに、ウエット路面でもABS作動直前の状態を維持しやすい。ちなみに本国では約20万円のオプション扱いとなるが、M2コンペティションは、エンジンの変更を含め初期型に対して70万円の上乗せにおさまるのだ。
リポート:萩原秀輝/H.Hagihara フォト:小林俊樹/T.Kobayashi BMW COMPLETE 2019 vol.72より転載