好スタートでワンツーに
決勝レース当日の午前7時過ぎから始まったピットウォーク。早朝から照りつける太陽の下、ドライバーとの記念撮影やサインを求めて数多くのファンがBMWチームのピットに詰めかけた。ファンとの束の間の交流を終えれば、すぐにスターティング・グリッドの準備でピット内が慌ただしくなる。両BMWチームのクルーたちはアスファルトの照り返しと澄んだ8月の青空が強く眩しいグリッドへと向かって、少しの緊張と大きな喜びに満ちた表情で足早に駆けだした。
グランドスタンドに響く国歌斉唱の後、待ちに待った第48回鈴鹿10時間耐久レースの幕が開けた。フォーメーションラップからシグナルがグリーンに変わるその瞬間、2番手につける#25アウディスポーツWRTのR8が先頭に立つべく一瞬の隙を狙う。だが、シュニッツァーのマルティン・トムチェックはトップを死守、そして3番グリッドにいたヴァルケンホルストのカッツブルクは、そのアウディを素早く交わしてシュニッツァーの後方に着いた。
その後は1時間以上に渡ってこの2台のM6による独走ランデブーが続き、レースの主導権を握ったBMWチームの士気が高まる。しかし、順調かと思われたその時、信じられない光景がモニターに映し出された。目の前で起こった複数台が絡むクラッシュをうまく避けたヴァルケンホルストだったが、後続のジェントルマンドライバーが駆る日産GT-Rがクラッシュ集団を避け切れず、猛スピードでM6のリアに追突。自力でピットに辿り着くもダメージが予想以上に酷く、わずか1時間でヴァルケンホルストの決勝レースは幕を閉じた。
掛ける言葉もみつからない程の落胆と無念のヴァルケンホルストの分も背負い、シュニッツァーはより一層精力的に残りのレースを闘った。ドライバーらの想いは強く、サイドバイサイドの激しいバトルを幾度も繰り広げて観客を大いに沸かせていた。その一方でチーフエンジニアからは、リスクを冒さないようにクールダウンを促す無線が冷静なトーンで流れ、クルー達も気持ちを新たに引き締めていたようだ。
そんな悪い予感は的中するもので、強いモチベーションが裏目に出たチーム・シュニッツァーのM6は、ドライブスルーや30秒のピットストップといったペナルティを受けてしまい、ポジションをいくつか落とした。しかし、数多くのBMWファンが見守る中、という長く激しい10時間の闘いを首位と同じ275ラップの5位入賞でチェッカーフラッグを受ける。
わずか数秒差で表彰台には届かなかったものの、その素晴らしく抜群のチームワークを日本で披露した、チーム・シュニッツァーのクルーたちは互いを労い抱擁を交わした。そして、優勝を果たしたアウディスポーツWRTやその関係者ら、この鈴鹿での戦いを共にしたライバルたちとの固い握手は、お互いの存在をリスペクトした美しい光景といえる。見上げた夜空には色鮮やかな花火が輝いていた。