「フェラーリ F40」は1980年代スーパーカーの記念碑的モデルだ【世界の傑作車スケルトン図解】#16-2

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エンツォが遺したアイコン的な名作

近代フェラーリの中でも最もシンボリックな一台。そして、フェラーリが最新のラ・フェラーリにも継承したスペチアーレ(スペシャル)的要素を初めて盛り込み企画されたF40は、同社が創立40周年を迎えた1987年に発表。すでに晩年を迎えていた創始者、エンツォ・フェラーリが長らく信奉した「そのままレースに出られる市販車」という基本理念を、自身の生涯最後に具現化したモデルだ。

FIAグループBでのレース参加を期して開発された288GTOエヴォルツィオーネから、市販車に転用されたF40。写真は生産化直前のプロトタイプで、リアウインドーの形状などが異なる。

そして同社の288GTOに拮抗する高性能を達成した宿敵、ポルシェ959を凌駕するロードカーを目指してエンツォ自らが生産化を指示したとも言われ、誕生に関する逸話からして伝説に満ちていたモデルである。 その基本は、288GTOのレースバージョンとして開発された288GTOエヴォルツィオーネをベースに、ストラダーレとしてのモディファイを加えたもの。鋼管チューブラースペースフレームに、カーボンファイバー/ケブラー混成のボディシェルを特殊な接着剤で組み合わせた車体構成。つまり、1980年代のグループCレーシングスポーツカーをそのままロードカーとしたような成り立ちだった。

ピニンファリーナが独自に所有していた風洞施設を活用し、同時代のレーシングカーさながらの空力対策を施したボディ。

ボディデザインは、社内に本格的な風洞設備を持つピニンファリーナ社が担当。それまでの自動車美にまつわる常識を一変させることになった。またインテリアもカーボンパネルがむき出しにされ、シートも本格的なフルバケットが標準装備されるなど、まさしくレーシングカーそのものの雰囲気を湛えていた。

巨大なリアウイングやディフューザーは、その産物と言えよう。

一方288GTOの2855ccから2936ccまでスケールアップされたV8エンジンには、288GTOと同様に2基のIHI製ターボチャージャーが組み合わされた結果、最高出力は478psを発揮。メーカー公表値で324km/hに達する最高速度など、凄まじいパフォーマンスをもたらした。

カーボンやケブラーパネル剥き出しのインテリアは、もともとレーシングカーとして開発された288GTOエヴォルツィオーネに酷似。その出自を物語っている。

そしてこの高性能はレースでも遺憾なく発揮されることになる。1992年のイタリア・スーパーカー選手権を皮切りに、BRP-GT手権やFIA-GT選手権。あるいは全日本GT選手権(現在のスーパーGT)でも、ミケロット社との共同開発によって製作されたF40ベースのGTマシンが大活躍するのだ。

ランチアのグループCカーLC2用から発展したV8ツインターボユニット。生産型でも478psを発生したが、FIA-GT選手権で活躍したF40GTでは700ps超!

フェラーリ製スペチアーレとしてのカリスマ性に加えて、フェラーリ生来のレゾンデートル(存在価値)たるモータースポーツでも輝かしい戦歴を残したことから、F40はスペチアーレとしての世界観を決定的なものとした傑作車と称されている。そして後世のあらゆるスーパーカーにとっても、今なおベンチマークとなり得ているのである。

一般道を快走するF40。かつて「悪魔的」とも称された素晴らしい排気音とともに、恐るべき高性能を発揮。まさしく公道を走ることのできるレーシングカーだ。

解説:武田公実

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