様々な断片から自動車史の広大な世界を管見するこのコーナー、今回はフランスの’60年代を代表するプラスチック製ミニカーである、ノレブとその時代について、思いを馳せてみたい。
フランス1960年代の軽薄の美学
ぼくがノレブのミニカーを初めて知ったのは、そんなに昔の話ではない。1981年から横浜で年に2、3回、開催されてきて、まもなく100回目を迎えるという伝統あるアンティーク・トーイのスワップ・ミートであるワンダーランドに通うようになってからのことだ。
もともとぼくは、ブリキのティン・トイよりも、ウッド・モデルよりも、プラスチック・モデルが主流になってきた世代に属する。なので、ノレブのプラスチック製ミニチュアカーのほうが、ダイキャスト製ミニチュアカーよりも親しみが感じられたのかもしれない。それに、他のダイキャスト・メーカーでは企画/生産しないようなマイナーなモデルがあるところも好ましかった。およそフランス車ならどんなモデルでもありそうだった。
でも、その頃は一番気に入っていたのがシトロエンとパナールだったから、地味なイメージのあるプジョーなどには手を出さなかった。ルノーもドーフィンだけは大好きで、ドーフィンのいろんなバリエーションを見つけるたびに買った。ジュバキャトルなども、その頃は他のミニカー・メーカーでは無かっただろう。また戦前のフランス車も多数あった。
ダイキャスト製より全体に薄い作りであることも良かったし、ディテールは細やかで、忠実だったし、ドアやボンネットが開くなどアクションもあった。プラスチックの素材も良さそうだった。塗装ではない、元からのプラスチックの成型色も綺麗で、そこにプラスチックならではの魅力を感じたのだ。そう、そこがノレブのプラスチック・モデルの最大の魅力と言っていい。
しかし、プラスチックの素材も経年変化がモデルによっては著しくあり、ドアやボンネットが浮いたり、ボディ全体が拗れたり、ということもあった。そこが、ノレブのこのシリーズの欠点で、その対策か、後には金属製のシャシーにプラスチック製のボディが載せられるようにもなった。また、プラスチックと並行してダイキャスト・モデルも作られるようになり、やがてはダイキャストだけになったり、レジン・モデルが作られたりと、時代によって有為転変としてきたが、現在でも生き残っているメーカーだからたいしたものである。
でも、ぼくにとってノレブといえば、’50年代から’70年代初頭までのプラスチック製モデルが真髄である。その頃のフランス製のキーホルダーや、フレンチ・ポップスや、ミニスカートなどの流行とも共通する’60年代のポップ・カルチャーのひとつでもあり、重厚長大とは真逆の軽やかさの美学なのである。