アストンマーティン全体としてはBEVだけでなくハイブリッドも導入していく
DBX同様、アストンマーティンにとっての新しい挑戦となるのがラゴンダ・ブランドの復活、それもEVに特化したブランドとしての新たなスタートだ。
「ラゴンダの販売をスタートするのは2022年から2023年にかけての予定で、今はそれを目指して開発を進めているところです。プラットフォームはDBXのものを流用して、もちろん電気モーターやバッテリーなどのEVとしてのコンポーネントを載せるために最適化します。内燃機関を搭載する予定はありません」
アストンマーティンとして、すでにEVのラピードEを発売してるわけだが、EVを専門的に開発する部署はどのくらいの規模なのだろう?
「ラピードEの開発に携わったのは、40~50人でしょうか。ただし開発には自社のスタッフだけじゃなくて、ウィリアムズ・アドバンスト・エンジニアリングにも携わっていただいているので、ハッキリ何人だとは申し上げにくいですね。プラットフォームの開発におよそ4年かかり、その間には1000人ほどが関わっています。それくらいの規模感です。いずれにしても様々なモデルを並行して開発してるので、人員もEVの部門だけに偏らせることはなく、平均的に配置しています」
EVの有用性、EVならではの魅力については理解してるつもりだけど、その一方で、世界的にはハイブリッドカーを見直す動きが出てきている。その点に関してはどうお考えなのだろう?
「ラゴンダは100%ピュアEVですが、アストンマーティン全体としてはハイブリッドも導入していきますよ。例えば、もうじきデリバリーがスタートするヴァルキリーも、ハイブリッド・システムを持ったモデルです。御存知の通り、必ずしも燃費だけではなく、むしろパフォーマンスのためのハイブリッド・システムですけどね。DBXの後に登場する予定のヴァルハラもそうですね。電気モーターをハイスピードのために使うモデルです。そういう使い方も含め、これから導入することになるモデルでは、必ずハイブリッド・システム搭載車を用意することになるでしょう。法規制などがあった場合は別ですが、おそらくプラグイン・ハイブリッドにはならないと思います。基本的にはラゴンダ・ブランドはEV、アストンマーティン・ブランドはハイブリッド、と分けて考えています。アストンマーティンのクルマはドライバーズカーとして優れたパフォーマンスを発揮しなければならないので、プラグイン・ハイブリッドのように重いバッテリーと重いエンジンの両方を抱えるというのは、そぐわないでしょう。もしも法規制が変わって“都市部ではEVしか走れない”というような状況になった場合には、DBXにピュアEVを用意するかも知れませんけれどね」
SUVやEVといった一昔前までのアストンマーティンには考えられなかったカテゴリーでの期待感が高まる一方で、それはアストンマーティンらしくないんじゃないか? といった声も上がっている。
「例えば、SUVがアストンマーティンというブランドにふさわしいかどうか、それはいくら議論しても結論は出ないでしょうし、正解というものもないと思います。ただし、現実的にはベントレーもランボルギーニもロールスロイスもSUVを作っているし、近い将来にはフェラーリも作ります。今、SUVを作らないという選択肢はないでしょう。重要なのはどんなSUVを作るのか、ということだと思うのです。先ほど私は、DBXはアストンマーティンらしいクルマになっている、とお伝えしました。それこそが最も大切なこと。歴史的に見ても、アストンマーティンのクルマ達には幾つかの大きな特徴があります。ひとつは美しいプロポーションを持っていること。それに、常に最先端に位置するものであるということ。アストンマーティンは1913年に、ラゴンダは1899年に創立された歴史的なブランドですが、両社に共通しているのは、創立当初から最先端のものを作ってきた、ということなんです。例えばEVのラゴンダを例にすると、EVのパワートレーンの開発は、実はそれほど難しいものではないんです。動く部分も少ないですしね。一番重要な技術は、バッテリーの管理でしょうか。忘れられがちだけどEV作りにおいて重要なのは、軽いこと、それに走行抵抗が少ないこと。私達は、その分野において最先端の技術を持っています。ときどきアストンマーティンはトラディショナルな、つまりある意味では昔ながらのモデルを作るべきだという声を耳にしますが、それは間違っていて、多くの人を魅了する美しいスタイリングを持ち、そうしたカッティング・エッジであることを活かしたクルマを作っていくこと。それがアストンマーティンとラゴンダのあるべき姿だと思うんです。それこそが100年以上ずっと守ってきた価値そのものであり、それこそが未来に向けてブランドを守っていくために重要なことなのです」
今回のグループ・インタビューはどうにも時間が限られていて、本当はカー・ガイとしてのパーマーCEOに訊ねたかったヴァルハラについて、ミドシップ・ヴァンキッシュについて、GTレースのヴァンテージについて、WECのハイパーカー・カテゴリーへの参戦を明言したヴァルキリーAMRプロについて……には、残念ながら触れることができなかった。けれど、冒頭に記したとおり、パーマーCEOは本当にメディアにフレンドリーに接してくれる方。次回にお会いできるタイミングでは、また僕達ファンの気持ちを盛り上げてくれるお話をたくさん聞かせていただくことができるだろう。その日をとても楽しみにしてるインタビュアーなのだった。
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