いまボルボのXC40とXC60がヒットしている。昨年、ボルボ・カーズの世界販売台数は前年比12.4%増の642,253台となり5年連続で過去最高を更新した。世界各地のマーケットにおいて販売好調を維持し、日本ではXC40とXC60の購入希望者が列をなして待っている。ここでは、注目の2台を連れ出してその魅力や真価を考察した。
北欧デザインとボルボの伝統が融合し独自の世界観
ボルボはいま、絶好調である。しかしその“ヒットの法則”をひとことで表すのは、決して簡単なことではない。それは彼らが長年培ってきた「安全」へのこだわりや、紆余曲折しながらもつかみ得た「ドライビングテイスト」、そして日常と余暇を両立させるツー・インワンなステーションワゴンやSUVの利便性といった要素が、見事に実を結んだものだからである。しかし間違いなくひとつ言えるのは、ボルボというメイクスが持つ潜在的な魅力を開花させたカギが、現行ボルボのデザインにあることだ。さらにこのデザインは単なるファッション性を問うだけでなく、彼ら“スカンジナビアン”の内面からも生み出されてきているところが面白いのである。
XC40の魅力は何といっても、その愛らしくもちょっと生意気なルックスだ。日本にも来日したエクステリアデザイン部門のチーフデザイナーであるマクシミリアン・ミッソーニ氏は、このXC40を「イングリッシュブルドックをイメージした」と述べたが、まさにこのデザインがXC40の人気を決定づけたと私は思う。LEDライトの強い目ヂカラと、下あごのように力強く張り出したバンパー。XC90が登場するまでボルボはどちらかといえばフェミニンなフェイスが特徴であり、ドイツ勢のような押し出しの強さを誇示することは避けてきたと思う。
しかし現行ボルボは、前述した“トールハンマー”ヘッドライトを軸に己のアイデンティティと存在感を高め、なおかつシンプルながらも力強いキャラクターラインで嫌みのないスタイリッシュさを身につけた。まさにこのいらないものを可能な限り削ぎ落とし、魅力だけを浮き立たせる手法は、スウェーデン人が好む手法である。
また今回の試乗車は最もベーシックなFFモデルの「モメンタム」だったこともあり、そのシンプルさはより一層強調された。搭載されるエンジンは190ps/300Nmを発生する2L直列4気筒インタークーラー付きターボ。これに8速のトルコン式ATを介し、前輪のみを駆動させる。
エンジンの吹け上がりとその音色は至極軽やかだ。車重が4WDの上級モデルに対し60-80kg軽いことも効いてか、190psのパワーに歯がゆさを感じる場面はほとんどない。むしろアイドリング領域から4000rpmと、ほぼ日常の全域で得られる最大トルクによって加速は得意。見晴らしの良いコクピット、スクエアなボディの見切りを活かして街中の流れをリードすれば、自然と気分が上向いてくる。乗車姿勢はアップライトだが、それも前のめりで元気な運転感覚にマッチしていると思う。
モケットシートのホールド性も適度に硬く心地良い。何よりガラスサンルーフから差し込む光が、立体的なインパネや白い内装を際立たせるのがいい。こうした造形および色調は、春を待ち焦がれるスカンジナビアンたちの心を表しているのだと、かつてインテリアデザイナーのチーフであるティッシャー・ジョンソン女史が教えてくれたことを思い出した。
もちろんそんなXC40にも弱点はある。8速のギアを持つATはその段数の細かさの割に変速レスポンスが鈍い。そしてこれを補うシフト操作も、パドルレスの場合はマニュアルモードに入れた上で右に倒せばシフトアップ、左に倒せばシフトダウンと、その操作が少しばかりややこしい。
しかしこれも、オーナーとなってXC40と向き合えば、時と共に解決できる内容だろう。昨今はスマホに限らず何でもその場で直感的に使えるイージーアクセスがすべて。使い方をマスターし己と機械が同化する喜びを“待てない”傾向が強いけれど、本来道具とはこれを使いこなすことで愛着を深めるものである。そしてXC40には、その愛を深めるに足る、可愛らしいルックスと元気な乗り味がある。