日本一とも言われる豪雪が1年を通じて山麓を潤す
映画『おくりびと』の舞台となった庄内地方。そのシンボルともいえるのが秀峰・鳥海山である。冬のあいだ、ここに降り積もる大量の雪は、絶えることのない恵みの水として平野を潤してきた。
2009年、第81回アカデミー賞(外国語映画賞)に輝いた映画『おくりびと』で、その舞台となったのが山形県の庄内地方である。
本木雅弘演じる主人公がオーケストラのチェロ奏者をあきらめ、故郷で納棺師の仕事に就くというストーリー展開もあって、映画での庄内はまず冬の陰鬱なシーンから映しだされる。実際、地元の人に聞くと、冬の地吹雪はすさまじいらしい。横殴りの風が地面の雪まで巻き上げるため視界はほとんど効かず、脱輪・転落の危険があるため、ガードレールのない田んぼの中の道など、「あぶねさげ(危ないから)走れん」というのだ。
ただ、春から秋にかけての庄内には、そういった自然の厳しさはまるで感じられない。北国、日本海、豪雪……といったイメージとはかけ離れた、じつに明るい風土なのだ。その庄内のシンボルが、『出羽富士』とも、『秋田富士』とも呼ばれる鳥海山である。
東北第二の高峰、標高2236mの鳥海山は、奥羽山脈の山なみから颯爽と独立し、長い山裾を日本海にゆったり伸ばしている。まさに『秀峰』という言葉がぴったりの山だ。
鳥海山頂から海岸線までは、直線距離にしてわずか15km。冬の間、対馬海流(暖流)から水蒸気をたっぷり吸い上げた北西の季節風は、さえぎるもののない山肌にぶつかると、膨大な量の雪を降らせる。ちなみに鳥海山の年間降水量は約1万2000mm。これは『ひと月に35日雨が降る』と形容される屋久島山間部の年間降水量6000-8000mmを大きく上回る(注:鳥海山/屋久島山間部の降水量は気象台や測候所の観測記録ではなく、簡易雨量計などで計算した推定値です)。
鳥海山に降り積もった大量の雪は沢水や湧き水となり、ひと夏かけてゆっくり溶け出してくる。いわば天然のダムなのである。
庄内平野を潤す雪解け水は、この地を国内有数の米どころにした。また、ミネラルをたっぷり含んだ伏流水は山麓だけでなく海中にも湧き出て、大量のプランクトンを発生させる。これが特産の天然岩牡蠣をはぐくみ、ハタハタの大群を沿岸へと引き寄せてきた。
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