木下隆之のブランパンGTアジア2018参戦記【第9&10戦 中国・上海】

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2位は最強の敗者にすぎない

「一度波に乗せたら厄介な存在になるぜ!」
たしか鈴鹿(第5戦)でブランパンGTアジア2018参戦初勝利をあげた直後、調子に乗せたら天にも昇るタイプの僕はそう大口を叩いた。
それは実際にその通りになり、翌々週の富士スピードウェイでのラウンド(第7&8戦)では2連勝。まったく手がつけられないくらい勢いづいてしまったのは前回リポートした通り。

その勢いは、ステージを中国・上海国際サーキット(第9&10戦/9月22-23日)に移してもまったく色褪せることなく、絶好調のままレースを支配した……、少なくとも表面上はそのように見えたことだろう。だって、予選は僕も塾長もスーパーラップを叩き出し、揃ってポールポジションを獲得。続く決勝第1レースで2位、翌日の第2レースでは優勝したのだから。

ただし、チームの雰囲気はリザルトとは異なり、ジェットコースターのごとく急降下と急上昇を繰り返す浮き沈みの激しいものだった。優雅に漂って得た勝利のように見えて、実はスワンの水掻きのごとく水面下でもがき苦しんでいたのである。

9月22日土曜日の第1レースは、楽々優勝するつもりだった。とはいえ前戦の富士を連勝したことで、僕らBMW Team Studieの81号車にはサクセスハンディキャップ(ピットストップ加算)が課されている。その貴重な15秒をコース上で取り返すべく、予定通りスタート直後からライバルのAMG GTやケイマンGT4らを引き離しはじめたものの、レース開始からわずか5分でセーフティカー(SC)が介入してすべてがリセット。結局、SCのアヤで2位に留まったが速さは確かにあった。

だが、そのリザルトに満足できたメンバーはひとりもいなかった。
「SCが長引かなければ勝っていたのにね」
周囲からはそう慰められた。それはある意味で事実だろう。タラレバが言い訳なのは承知だが、M4 GT4本来の速さでもぎ取った大量のマージンがSC介入によって失われ、優勝を奪い取ったことには違いはない。むしろ2位表彰台はベストを尽くした結果といえるだろうが、僕らはまったく満足していなかった。

その証拠に、誰も示し合わせたわけではないのに、夜独りになったわれわれは同じ心境を吐露していた。
「2位はビリだ」
鈴木康昭監督はツイッターでそう呟き、悔しさを露わにした。
「The Fastest loser」
砂子塾長は、自身のFacebookで残念がった。
「2位は最強の敗者にすぎない」
これは僕がFacebookに書き込んだ言葉だ。
心の底で同じ想いを抱いていたのである。

危険なギャンブルに挑む

速さはあった。だからこその予選ダブルポールであり、2位表彰台である。だが、ヘルマン・ティルケが設計した変則的なコースレイアウトは、BoP(性能調整)で車高ダウンが禁じられているわれらM4 GT4には厳しく作用した。BMW本来のポテンシャルを100%引き出せないのだ。

土曜日の第9レースが2位に終わったのは、SC介入がバットタイミングだっただけでなく、タイヤのグリップダウンが顕著だったゆえといえる。後半の追い上げが効かなかったのだ。

たとえ運が悪くても勝つのが真の王者だと僕は思う。だからこそ、チカラワザで優勝を奪い取るつもりだったにも関わらず、後半のペースが落ちてしまったのが悔やまれるというわけだ。

そして、ここからが僕らが強いところだ。SC介入がなければ第10レースを勝利できると分析していたのだが、たとえ運が悪くても勝つ方法を模索した。それが、僕らが初めて挑む、ピットインでのタイヤ交換作戦の敢行である。僕らどころか、ライバルを含めたどのチームも挑戦したことのない作戦だろう。

というのは、レース後半のタイヤの熱ダレを回避するために、ピットインの限られた時間でタイヤを4本交換することは、耐久レースでは珍しくない戦略だ。が、60分のレースで最低限のピットストップ時間が規定されたブランパンGTアジアのルールでは決して楽ではない。メンバーが完璧に作業を遂行した時だけに得られるアドバンテージなのだ。つまり、圧倒的に有利なチームが選ぶような戦略ではく、その作戦でなければ勝機のない下位チームが挑戦する危険なギャンブルだ。それに僕らは挑んだのである。
結果からいえば、BMW Team Studieのメンバーは目の覚めるような作業を遂行してくれた。ピットアウトして僕がコースに送り出された時点では、もはや勝利は確定したようなもの。僕はチェッカーフラッグが振られるまでのドライブを楽しんでいればよかった。

今回の上海戦で僕を感動させたのは、たとえ運に見放されても勝利するために妥協をしなかったこと。その姿勢にこのチームの強さを見た。

この第10戦の勝利によって、81号車の僕と砂子塾長のドライバーランキングは2位に浮上。AMG GTを駆るトップのReinhold Renger選手との差は11ポイントにまで迫った。

優勝すれば25ポイントが稼げるこのレースではもはや並んだも同然だ。最終ラウンド(第11&12戦)はまたもや中国(寧波/10月13-14日)である。さあ、面白いことになってきた!

BMW Team Studie公式サイト http://TeamStudie.jp/

 

【木下隆之】Takayuki Kinoshita

出版社編集部勤務を経てレーシングドライバーとしての活動を開始。全日本ツーリングカー選手権、全日本F3選手権、スーパーGT500/GT300等で優勝多数。スパ・フランコルシャン24時間、シャモニー24時間等々、数多くの海外経験を持ち、特にニュル24時間レースへの参戦は日本人最多出場記録および最高位記録を保持。一方で、数々の雑誌に寄稿するモータージャーナリストであり、ドライビングディレクター、イベントプロデュース/ディレクションをこなす。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本ボート・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

【Blancpain GT Series Asia】 ブランパンGTシリーズ・アジア

FIA規定GT3マシンとGT4マシンによりポイントを争うGT選手権シリーズ。土日開催の各ラウンドを2名のドライバーが1台のマシンを駆り闘う展開の速い1時間のレースである。6ラウンド全12戦となる今季は、マレーシア・セパン(4/14-15)で開幕。タイのチャン国際サーキット(5/12-13)から鈴鹿サーキット(6/30-7/1)、富士スピードウェイ(7/21-22)、上海国際サーキット(9/22-23)をラウンドして中国の寧波国際サーキット(10/13-14)が最終戦となる。http://www.blancpain-gt-series-asia.com/

 

リポート:木下隆之 T.Kinoshita フォト:田村 弥 W.Tamura

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