木下隆之のブランパンGTアジア2018参戦記【開幕戦セパン】

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ニッポンのGTチームが
M4 GT4でアジア戦に挑む!

 

 昨シーズンまでスーパーGTで活躍した名門「BMW Team Studie(ビー・エム・ダブリュー・チーム・スタディ)」から、ブランパンGTアジアへの参戦依頼があったのは、暮れも押し迫った昨年の12月のことだった。
「木下さん、ドライバーズカテゴリーはブロンズですか? だったら一緒に戦えるかと思って……」
 BMW Team Studie代表のBOB鈴木(鈴木康昭)氏からだった。氏とはずいぶん昔、ニュルブルクリンク24時間参戦に関してコンタクトしてからのご縁である。そのプロジェントは不成立になってしまったけれど、それ以来僕は「BMW Team Studie」のドライバーとして共に戦う日を夢見ていた。

 だから迷う理由などなく、ふたつ返事でそのプロジェクトにノルことにした。寝耳に水の、飛び上がらんばかりの嬉しい話に、その夜に祝杯をあげたほど僕にとっては朗報だったのである。
 ただし、ふたつ返事で快諾し、祝い酒まであげておきながら、はたと頭を悩ませた。
「ブロンズとはなんぞや??」
 ドライバーズカテゴリーなる言葉は耳にしてはいたが、自分がどのランクになるのかなど知らなかったのである。聞けば、ブランパンGTアジアは、ブロンズドライバーのみ参加が許されるという。
 このドライバーズカテゴリーとは、全世界のモータースポーツを統括している、FIA(国際自動車連盟)が定めた新興のシステムで、ドライバーの経歴や実績によって4つにランク分けするもの。大まかに言えば、最上位の「プラチナ」はF1経験者レベル、「ゴールド」は全日本優勝級で「シルバー」は全日本参戦経験級、最下位の「ブロンズ」はアマチュア扱いと思ってもいい。

 レース業界でもそこそこブイブイ言わせてきたつもりだから、プロクラスともいえるプラチナかゴールドだと確信していた。だがよくよく規則を調べてみると、最下位カテゴリーのブロンズに分類されることを知った。
 ブイブイいわせてきたのにブロンズか……? 実はカラクリがある。50歳以上は1ランクダウン、55歳以上は2ランクダウン。つまり57歳まで歳を積み重ねてきた僕は、知らぬうちにゴールドからブロンズにまで格下げとなっていたのだ。

 一見するとこれは、レーシングドライバーとしては屈辱と映るかもしれない。だがコトはそう単純ではなく、むしろ朗報だ。というのも、実はこれが幸いして、ブランパンGTアジアのGT4クラスは、ブロンズドライバーのみ参加が許される。実績だけで判断されたら、この夢のようなプロジェクトに参画することができなかったのだから、話は聞いてみなければわからない。

 

かなり手強い「ブロンズ」勢
歴戦の猛者たちが立ちはだかる

 とはいうものの、ブランパンGTアジアのドライバーレベルは決して低くはない。年齢を重ねてはいるが、過去には輝かしい実績を残したレジェンドドライバーがエントリーリストに名を連ねる。あるいは実績は乏しくとも、これから世界に羽ばたこうという血気盛んな若者が集うのだ。
 M4 GT4「81」号車の相棒である「砂子塾長」もそのひとりだ。実績は十分なのだがレースシーンを離れて10年が経つ。晴れてブロンズドライバーとしてコンビを組む。

 かくして挑んだセパン・サーキットでの開幕戦は、予想通り荒波に揉まれることになった。手強いのはメルセデスAMG GT4だった。前年度チャンピオンのポルシェ・ケイマンGT4も鼻息が荒い。我々の武器であるBMW最新の「M4 GT4」の前に大きな壁として立ちはだかった。

 4月14日の土曜日に行われた第1レースは予選2位で決勝4位。翌15日の日曜日開催の第2レースは予選3位から決勝は2位表彰台。始まってみれば、ブランパンGTアジア特有のルールやマナーに翻弄され、バタバタしながらの展開で終えた感じ。

 スタートシグナルは隊列が整う前にグリーンが点灯し、アクセルオンのタイミングを逃した。ピットストップはインからアウトまで125秒以下ではまかりならんという独特な規則もあり、タイムコントロールに課題を残した。それでも、スタートで順位を大きく落としてからの挽回だったし、ピットロスも響いた上での入賞であり表彰台なのである。初陣で早くもシャンパンファイトが味わえたのは大成功だといえるだろう。

 僕の海外レース経験は少なくない。イギリス・スネッタートン、ベルギー・スパ・フランコルシャン、ハンガリー・ハンガロリンク、もちろんドイツ・ニュルブルクリンク、マレーシア・セパンなどなど……。ローカルのルールやマナーに翻弄されるのは「海外あるある」だから、いまさら慌てるほど子供じゃない。だてに30年以上も現役を続けてきてはいないし、「ブロンズ」を拝命してもいない。コース上で競い合った感触からすれば、勝てるレースであったとも思えたからこそ、悔しさも残った。

 まずはマシンが素晴らしい。BoP(詳しくは次回ね)で苦しめられているとはいえ、M4 GT4の戦闘力は高い。ドライバーレベルでは上回っていると自画自賛もしている。そもそも「BMW Team Studie」はトップチームであるし、監督のBOB鈴木氏も極めてポジティブで勝利に貪欲である。勝てない要素は見当たらない。
 次回のタイ・チャン国際サーキット戦(5/12-13)もぜひ応援してほしい。
 
BMW Team Studie公式サイト http://TeamStudie.jp/

 

【木下隆之】Takayuki Kinoshita

出版社編集部勤務を経てレーシングドライバーとしての活動を開始。全日本ツーリングカー選手権、全日本F3選手権、スーパーGT500/GT300等で優勝多数。スパ・フランコルシャン24時間、シャモニー24時間等々、数多くの海外経験を持ち、特にニュル24時間レースへの参戦は日本人最多出場記録および最高位記録を保持。一方で、数々の雑誌に寄稿するモータージャーナリストであり、ドライビングディレクター、イベントプロデュース/ディレクションをこなす。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本ボート・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

【Blancpain GT Series Asia】 ブランパンGTシリーズ・アジア

FIA規定GT3マシンとGT4マシンによりポイントを争うGT選手権シリーズ。土日開催の各ラウンドを2名のドライバーが1台のマシンを駆り闘う展開の速い1時間のレースである。6ラウンド全12戦となる今季は、マレーシア・セパン(4/14-15)で開幕。タイのチャン国際サーキット(5/12-13)から鈴鹿サーキット(6/30-7/1)、富士スピードウェイ(7/21-22)、上海国際サーキット(9/22-23)をラウンドして中国の寧波国際サーキット(10/13-14)が最終戦となる。http://www.blancpain-gt-series-asia.com/

 

リポート:木下隆之 T.Kinoshita フォト:田村 弥 W.Tamura

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