販売台数は増加、特に高級車が売れる!?
5月24日、「くるま塾実行委員会」が主催するシンポジウム「自動運転このカベを乗り越えられるか」が開催された。くるま塾とは自動車メディア関連の重鎮6名、清水猛彦氏、鈴木脩己氏、鈴木俊治氏、堀江史朗氏、山口京一氏、米村太刀夫氏が立ち上げた団体で、長年のジャーナリスト活動で得た知見を日本の自動車関連産業に還元するため、手弁当でイベントや講演会などを実施している。
その第2回目となるシンポジウムのテーマは、いま話題の「自動運転」だった。会場は都内のブリヂストン・グローバル研修センターで、国産自動車メーカーや輸入車インポーター、部品メーカーの社員を中心に、メディアやシンクタンク関係者までざっと50名以上が参加した。
基調講演はモータージャーナリストの清水和夫氏が担当。2017年がほぼ「レベル3」相当の自動運転車が市販されそうな“自動運転元年”になりそうなこと、欧米の自動車メーカーは都市デザインから再考して自動運転に取り組んでいること、自動運転にはクラウドソーシングで作られる3次元地図が欠かせないこと……など、世界各国の自動車メーカーが取り組む最新の自動運転事情を紹介。
続いて登壇したのは、ヨーロッパのコンサルティング会社(株)ローランド・ベルガーの貝瀨 斉(かいせ ひとし)氏。貝瀬氏はおもにビジネス的な視点から来るべき自動運転時代に何が起こるのかを解説した。例として挙げられたのは、郊外の特定エリアで実施される完全自動運転のロボ・タクシーや、ドライバーが車内で過ごす時間を有意義なものにするエンタメビジネスといったものだが、最も興味深かったのは自動運転時代に車の販売状況がどうなるのか? という需要予測だった。
その驚きのリポートとは……便利な自動運転タクシーやカーシェアリングの普及により、1台あたりの稼働時間が増えて耐用年数が短くなり、買い換えサイクルが短期化するために販売台数自体は増加。ただし、シェアードモビリティ専用車に食われる形で“足代わり”に使う汎用ブランド車の販売は激減する。代わりに、いままで「ひとり1台」というような買い方をしていた郊外の家庭が「一家に1台」へとシフト、車の購入予算が増えて高級車の販売は増加する……というものだった。
さらに自動運転時代の安全について、独立行政法人・交通安全環境研究所の河合英直氏が解説。自動運転時代には、車が単なる機械ではなく「人間をシステムに組み込む機械」に変容すると述べ、人間の意識改革をどう進めて行くかが課題だとした。また法律問題からは法政大学教授の今井猛嘉(たけよし)氏が講演。自動運転車が事故を起こした場合、誰を処罰すべきなのか? ドライバーなのか自動運転車を作ったメーカーなのか、ロジックを司るAIなのか、はたまたそれを作ったプログラマーなのか……など、まだまだ議論の余地が大きい実情を語った。
機械がどんどん進化してゆく一方、人間の意識改革は遅々として進まない。だが、いちばん大切なのは間違いなく人間だ。果たして自動運転は人をシアワセにするのか? 激しいメーカー間の開発競争や官民挙げてのグローバルスタンダード争奪戦云々以前に、そんな根本的な議論が必要なのでは? と感じたシンポジウムだった。
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