高速ではACCを活用して移動、サーキットでも楽に全開走行をこなし帰路につく、といった理想的なライフスタイルを実現できる最高な1台!「マクラーレン アルトゥーラ」【野口 優のスーパースポーツ一刀両断!】

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官能的なフェラーリ296GTBに対し、理知的なマクラーレン アルトゥーラ

頑なまでにスーパースポーツモデルのみで市場に挑んできたマクラーレン。2018年に発表した中期経営計画のビジネスプラン“トラック25”の第一弾となるのが今回取り上げる「アルトゥーラ」だ。2025年までに18のニューモデルを導入し、全車をハイブリッド化すると公表したその時、他社でも似たような計画を立てていたから特別驚きはしなかったものの、実際どのような構成を採るかは発表されていなかったが、アルトゥーラの詳細が判明した時は、確かにこれなら“ゲームチェンジャー”に相応しい――と思えたのは本当だ。

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大きなエアインテークが印象的なアルトゥーラ。ドアハンドル(実際はロック解除用スイッチ)が設けられたのはマクラーレンとしては初だ。

パワートレインは、これまでのV8ツインターボとは打って変わり、3L V6ツインターボユニットを搭載する。しかもバンク角は120度! と聞けば、もはや避けるわけには行かない、これは最大のライバルと言えるフェラーリ296GTBと同じである。これにEモーターとバッテリーが加わったPHEVとなり、最高出力は680psを発揮、最大トルクは720Nmというスペックが並べられるが、これはいずれも296GTBには及ばない。しかし、330km/hの最高速度は同等、0→100km/h加速は0.1秒ほど下回るのみ。ということは、アルトゥーラは極めて綿密に効率化されていることをスペック上で証明してみせている。

新開発となる3L V6ツインターボをミッドシップマウント。これに95ps/225Nmの電気モーターと、容量7.4kWhのリチウムイオンバッテリーを組み合わせる。エンジンルームの中央に見えるチムニー・ダクトは、車両底面から吸い上げた気流により冷却するのに役立てられる。

筆者にとって超好印象だった296GTBに対し、ほぼ同じアプローチで、同等のパフォーマンスとなれば、このアルトゥーラが如何なる走りを披露してくれるのか期待が膨らんだが、そのフィーリングは似て非なる個性が際立った。具体的に言えば、フェラーリが高揚感を全面的に押し出しエモーショナル感満載なのに対して、マクラーレンは生真面目。言い換えれば、296GTBは官能的、アルトゥーラは理知的と例えられるだろう。

アルトゥーラのドライブモードは、これまでの「コンフォート」「スポーツ」「トラック」に加えて、「E(エレクトリック)」を追加しているが、驚くのはこれがデフォルトであるということ。即ち、パワーオンにすると電気のみで走行し、しかもこの状態でフル充電であれば最長で31kmほど走行可能というから、ここでは跳ね馬を上回っている(296GTBは最大25km)。スタート時における加速は、トルクデリバリーに拘っていることもあり、0→100km/h加速3.0秒と瞬発力があるのは確かだが、控えめにスタートするマナーの良さも備えているから街中でも非常に扱いやすい。

シンプルなデサインのコクピット。メーターナセル左右のスイッチでパワーユニットとシャシーの制御を個別に調整できる。

しかも、タウンユースではマクラーレンGTにも匹敵するほど快適で、EV走行を考慮して遮音対策なども徹底的に対策されている。インテリアの質感も向上しているゆえにラグジュアリー感も兼ね備えていると言っても差し支えないだろう。さらにこのアルトゥーラのインテリアで感心したのは、ステアリングコラムの位置調整を行うと、インストゥルメントパネルも併せて稼働し、計器類の視認性を確保しれくれること。個人的なことではあるが、大抵の場合、自分好みのポジションを採るとメーターパネルの一部が欠けて見えるのがほとんどだっただけに心底有り難いと思った。

そういった意味では、ドライブモードとシャシーのモード設定がメーターナセルの左右上部に配置されているのも好印象。ステアリングから指を伸ばせば届くため、走行中に変更するのが大幅に楽になったのも朗報だ。右側のドライブモードの中央にはマニュアルモードのスイッチを備え、左側のシャシーモードは「コンフォート」「スポーツ」「トラック」の3種類の他、中央にESCオフスイッチが配置されるなど、全面的に使い勝手が向上している。

実際の走りに関しても快適性の高さが際立つが、これがトラックモードでも不快感がなかったのは驚異的だった。路面のアンジュレーションに対しても極度な突き上げを抑え、可能な限り車両をフラットに維持することもあって、自ずとペースが上がっていってしまうから、かえって自分を制御するほうが難しいとさえ思えてくる。しかし……、それなりに攻め込んでいくと、マクラーレンの新たなアプローチが垣間見えてくるから面白い!

特にハンドリングは、今までのようなクイックさは影を潜め、旋回中の微調整もしやすくなっている。これまでのマクラーレンを知る人にとっては新感覚を味わえるだけでなく、これこそ待ち望んでいたフィーリングだと思う可能性すらあるほどの仕上がりだ。マクラーレン初の電子制御ディファレンシャル(Eデフ)による後輪左右間のトルク制御も巧みで、コーナー脱出時におけるトラクションも秀逸! さらに姿勢も安定しているから、アンダーステアとは無縁のような優れた走行性で魅了する。

フロントのラゲッジスペース容量は150Lに限られるが、これがあるなしで行動範囲は大きく左右される。

もちろん、今や電動式が主流になっているステアリングシステムを拒み、アルトゥーラも油圧式を貫いて採用しているが、重量削減を理由に再設計されている影響もあるのだろう、攻めれば攻めるほど、これまでのマクラーレンとは一線を画す出来栄えに感心してしまう。どうやら、このアルトゥーラから始まったハイブリッドモデル用に開発された新世代のカーボン・アーキテクチャーと足まわりは相当、完成度が高いと見た。機会があれば、サーキットで追い込みたいと思わせるほど、奥の深さを感じてならなかった。

標準のピレリPゼロは内部にマイクロチップを備えたピレリ・サイバー・タイヤ。空気圧やタイヤ温度を計測して車両に送信する。

カーボンセラミックブレーキもマクラーレンの最新LTモデルと同じシステムとはいうものの、初期のタッチはタウンユースでも使いやすいようアレンジされている一方で、ガツンと踏めば強烈な効きを発揮するから、ある意味では720S以上にシーンを選ぶことがないほどのフレキシブルさを併せ持つ。

リアエンドの高い位置にエキゾートトパイプを設けて背圧を減少。リアディフューザーは2段構成として効率を改善している。

それにしても、このアルトゥーラに装着されているクラブスポーツシートは、非リクライニング式のバケットタイプであるにも関わらず、ホールド性に優れるだけでなく、座り心地も抜群、意外にもポジションが取りやすく、柔軟性に富んでいることにも驚いた。これならサーキットでも十分に対応してくれるのは間違いないだろう。ACC(アダプティブクルーズコントロール)の選択も可能だから、高速道路では半自動運転を使って移動し、サーキットでは大した汗を掻くこともなく全開走行をこなし、そして帰路につく、といった理想的なライフスタイルを実現するには今、最高な1台だと思う。

セミバケットシートは、快適な掛け心地を実現している。

【Specification】マクラーレン・アルトゥーラ
■全長×全幅×全高=4539×1913×1193mm
■ホイールベース=2080mm
■トレッド=1650/1613mm
■車両重量=1395kg
■エンジン種類/排気量=V6DOHC24V+ツインターボ/2993cc
■最高出力=585ps(430kW)/7500rpm
■最大トルク=585Nm(59.6kg-m)/2250-7000rpm
■モーター最高出力=680ps(430kW)/7500
■モーター最大トルク=720ps(73.4kg-m)/2250
■燃料タンク容量=66L(プレミアム)
■トランスミッション=8速DCT
■サスペンション(F:R)=Wウィッシュボーン:コイル
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=235/35R19(8.5J):295/35R20(10.5J)
■車両本体価格(税込)=30,700,000円

マクラーレン・アルトゥーラ公式サイト

フォト=篠原晃一/K.Shinohara

この記事を書いた人

野口優

1967年生まれ。東京都出身。小学生の頃に経験した70年代のスーパーカーブームをきっかけにクルマが好きになり、いつかは自動車雑誌に携わりたいと想い、1993年に輸入車専門誌の編集者としてキャリアをスタート。経験を重ねて1999年には三栄書房に転職、GENROQ編集部に勤務。2008年から同誌の編集長に就任し、2018年にはGENROQ Webを立ち上げた。その後、2020年に独立。フリーランスとしてモータージャーナリスト及びプロデューサーとして活動している。

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野口優
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2023/05/24 06:30

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