ファミリーから高齢の夫婦まで幅広い層に人気
ここへきて、キャンピングカー市場の様子が少し変わってきたようだ。コンちゃんがウチに来てから、もうすぐ1年だが、自分自身でキャンパーを使う身となり、市場の移り変わりを肌身で感じている。具体的に、なにがどう変わってきたのか?
キャンピングカーショー2022(2022年2月10日~13日、於:千葉県幕張メッセ)の現場で業界関係者の声を拾ってみた。なお、開催期間中は千葉県に、新型コロナ感染症に対するまん延防止等重点措置が国から指定されていた。そのため取材時は小まめに手を消毒、マスク及びフェイスガードを着用、そしてインタビュー時でも相手との距離を十分に取って対応した。
売れ筋は軽キャン
まずは、日本のキャンピングカー市場全体の業績について見ていこう。一般社団法人 日本RV協会が2021年6月に公開した『キャンピングカー白書2021』によると、2020年のキャンピングカー保有台数は対前年比106.7%の12万7400台だった。
データとして示されている2012年から右から上がりで伸びている状況だ。種類別でみると、「ハイエース」を主体とするミニバンを改良するバンコン(バンコンバージョン)が144.7%、また8ナンバー以外の軽自動車を改良する軽キャンが161.2%と伸びが大きい。
2021年の実績については、まだ取りまとめされていないので、業界大手の東和モータース販売など数社に市場の現状について聞いてみた。各社とも「コロナ禍になって2年で、市場全体の雰囲気は安定してきた」という。
具体的には、テレビやネットで、「ライフスタイルの変化」とか、「災害時にも強い」といった観点での報道を増えたことで、キャンピングカーに対する『特殊なクルマ』というイメージが薄れて『実際に購入を考える対象』へと大きく変化してきているという。その上で、「納車できるモデルから、ドンドン売れている」という、売り手市場だというのだ。
販売店によって品揃えが多少違うが、輸入車、国産キャブコン、バンコン、軽キャンなどの中で最も販売台数が多いのは、軽キャンだという。この点は、前述した日本RV協会キャンピングカー白書2021の調査データと合致する。
ユーザー層については、「ファミリーという括りだが、世代はとても幅広い」という指摘が多かった。売れ筋は、軽キャンならば300万円前後、バンコンならば500~700万円が主流であり、中級から上級のミニバンとも重なる価格だ。
自動車メーカーの動きにも変化の兆し
次に、自動車メーカーについてだが、ここでも新しい動きが出てきた。まずは日産だが、東京オートサロン2022に次いで、今回も「キャラバン マイルーム コンセプト」を出展した。日産本社の商業車商品企画担当者は「キャンピングカーや、車中泊といった括りだけではなく、自宅の部屋の感覚というコンセプト」だと説明する。ターゲットとしては、リモートワークに対する抵抗感が少ないデジタルネイティブ世代が主体だ。コロナ禍となり、働き方が大きく変わったことは、一過性のブームではなく、大きな社会変革だと捉えており、そこに商用車の乗用化で新しいビジネスモデルが成立すると推測しているのだ。
その上で、今回の「マイルーム コンセプト」については「こうした(ショーなどの)機会で市場の声を聞いて、量産化を考えていきたい」と実際の事業に対する本気度を示した。量産の方法については、例えばディーラーが完成車を基に個別にカスタマイズする『販社架装』として始めるのか、または「マルチベッド」や「トランスポーター」のように「キャラバン」のカタログモデルとして販売するのかなど、様々な選択肢が考えられると指摘した。
もう1社は、イタリアのフィアットだ。現在は、FCAとPSAが融合し欧米の各種ブランドを抱えるステランティスの一員となっている。FCAジャパンが今回発表したのが、商用車「デュカト」の日本上陸だ。それも、キャンピングカーのベース車両として正式導入するというのだ。いわゆる「種車(たねしゃ)」という扱いである。価格は469万円からで、2022年下半期からデリバリーを始める。
この事業の特長は、既存のFCAジャパンとグループPSAジャパンの正規ディーラーを主体として、新たに「フィアット プロフェッショナル」という販売ネットワークを導入する点だ。「デュカト」は、1960年に初代が登場し、欧州商用車市場では現在7割のシェアを誇るベストセラーだ。
すでに、「デュカト」をベースとした様々なキャンピングカーが日本に輸入されているが、ステランティスとしては日本のユーザーのニーズに合わせたきめ細かいカスタマイズを支援する体制を敷くことになる。なにより、駆動系などベース車の基本性能に対してメーカー補償がしっかりしている点が、ユーザーにとって大きな安心につながる。同時に、FCAとPSAに関わるディーラー各社にとっては、ビジネスの幅が大きく広がる可能性があるといえる。
その他の自動車メーカーで、ユーザーが最も気になるのがトヨタの動きだろう。バンコンのベース車として圧倒的なシェアを誇るトヨタ「ハイエース」については、コンちゃんのようなディーラー単独での販社架装や、全国各地のディーラーがキャンピングカー製造専業メーカーのトイファクトリーと連携した販社架装するといった、これまでと同じような流れに落ち着いている。
期待される日本版300系ハイエースについては、200系ハイエースの製造を全面的に担っている岐阜車体工業(岐阜県各務原市)の周辺から、新たな情報は聞こえてこない。
トヨタでは、ノア・ヴォクシーが2022年1月にフルモデルチャンジして発売が始まったが、オプションパーツとして車内空間をキャンピングカーのように大きくアレンジするオプション設定は特にない。
また、ダイハツ「アトレー」にも注目が集まっている。テレビCMや商品カタログでも、キャンピングカーや車中泊のニーズを強く意識しており、荷室をアレンジする様々なオプションアイテムを揃えた。今回は出展せず、東京オートサロン2022で様々なカスタマイズ仕様を披露している。
そのほか、キャンピングカーショー2022会場内で気になったのは、最近需要が徐々に増えてきたルーフテントだ。欧米の様々なメーカーが日本市場に注目している。さらには、雪国の風物詩である”かまくら”を彷彿させるような、樹脂製の円形ルームのブースに足を止める人が多かった。こちらは建設許可が不要で、価格は100万円程度からという設定だ。
コロナ禍で一気に注目されてきた、キャンピングカー。はたして、日本人の日常生活の中にしっかりと馴染んでいくのだろうか?
今年も、コンちゃんと一緒に、様々な体験を通じてキャンピングカー市場の動向を追っていきたい。
この記事を書いた人
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。日本自動車ジャーナリスト協会会員。一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。海外モーターショーなどテレビ解説。近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラファイムシフト、自動運転、EV等の車両電動化、情報通信のテレマティクス、そして高齢ドライバー問題や公共交通再編など。
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