1970年代に安全対策としてラジエーター内にスムーズに格納する「ライズ」機構を採用
ロールス・ロイス・モーター・カーズはこのほど、同車のボンネット先端に装着されているマスコット「スピリット・オブ・エクスタシー」が、1911年の誕生から110周年を迎えたことを発表した。このマスコットは最も有名なシンボルのひとつであり、美しさ、豪華さ、完璧さを体現する真のアイコンとなっている。
このマスコットは、自動車誌「The Car illustrated」の創設者で編集者のジョン・ダグラス・スコット・モンタギュー卿(ボーリューの第2男爵モンタギュー/1966-1929)が自身のロールス・ロイス・シルバーゴーストにマスコットを装着しようと考え、1909年にイラストレーターで彫刻家のチャールズ・サイクスに製作を依頼したのがきっかけ。サイクスは羽ばたくローブを着た若い女性の銅像を造り、それを「ウィスパー」と名付けた。
当時、ロールス・ロイスでゼネラルマネージャーを務めていたクロード・ジョンソンはこれを不快に思い、このような“見苦しい”改造から自社の製品を守るため、“公式の”マスコットをデザインするようサイクスに指示。サイクスは「ウィスパー」を再解釈し、「スピリット・オブ・エクスタシー」を完成させた。
このデザインは1911年に同社の知的財産として登録され、ロールス・ロイスブランドの特徴として世界で最も有名で象徴的で望ましいエンブレムのひとつとなった。もともとは高さ約18cmの彫刻のようなものだったが、今日ではより小柄な高さ約9.5cmのものとなっている。
1970年代はスイスなどのいくつかの国で、安全上の理由からマスコットを禁止する動きがあった。そこで同社は、マスコットをバネ仕掛けの台座に装着し、ワンタッチでラジエーター内に格納できる機構を開発。この引き込みメカニズムは後に「ライズ」と呼ばれるスムーズで優雅な動きに進化し、英国グッドウッドでハンドメイドされるすべてのロールス・ロイス車の標準装備品となった。
1999年まで「スピリット・オブ・エクスタシー」は、ロウを用いた「ロストワックス鋳造」によって製作された。1939年まではサイクスが娘のジィセフィンの助けを借りながら、ひとつひとつ完成させていたという。
2003年にBMWグループに属するようになってからは、英国サウザンプトンの専門会社の協力を得て、現代の焼き流し精密鋳造製法を導入。元となる「スピリット・オブ・エクスタシー」をデジタルでマッピングして完全な3D画像を作成し、細部まで忠実に再現するために熟練した職人が0.2mmのカッターで射出成形金型を製作。この金型に1600℃で溶融させたステンレス鋼を充填して成形する。ピーニングと呼ぶ仕上げ工程では、わずか0.04mmのステンレス鋼の玉を無数にぶつけて表面を研磨。その後、最終的な鏡面研磨、厳格な品質保障チェックを経て、ロールス・ロイス車に装着される。
サイクスが作成したオリジナル版「ウィスパー」や、そのほかのスピリット・オブ・エクスタシーの置物は、英国ボーリューの国立自動車博物館に常設展示されている。
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