待ちに待ったアストン・マーティン初のSUV、DBXが遂に上陸を果たした。近年スーパースポーツ系ブランドが続々とSUVを登場させるなか、最後発のモデルともいえるDBXだが、強豪ひしめくライバルに対するアドバンテージは何なのか? じっくりと検証してみることにしよう。
エレガントで美しいスタイルを持つSUV
2015年のジュネーブ・ショーで開発開始の発表があって以来、世界中のファンのボルテージを上げるように断片的に情報が発信され続け、昨年ついにそのヴェールを脱いだアストンマーティンDBX。春に予定されていた国際試乗会が新型コロナ・ウイルスの影響でキャンセルとなりヤキモキさせられたが、ついに日本の路上を走る日がやってきた!
全長5039mm、全幅1998mm、全高1680mmというボディは、レンジローバーとほぼ同サイズだが、太陽の下で見る姿は、思いのほかコンパクトに見える。上屋に向かって絞られたクーペライクなスタイルと、複雑なメタリックチップにより外光に合わせてその表情を微妙に変えるグロスゼノングレイと呼ばれるガンメタリックの効果も大きいかもしれない。
このアストンマーティンのDNAを強く受け継いだSUVらしからぬエレガントで美しいスタイルはDBXの魅力の1つだが、そのハイライトはやはり走りにある。
大型のSUVに乗ると、下半身の強さというか重厚感を感じるものだが、DBXはとても5m&2トン超の巨大を動かしているとは思えないほど軽やかなのだ。
メルセデスAMG製の4LV8ツインターボは、DB11 V8やヴァンテージとは違う独自のチューニングが加えられたもので、550㎰のパワーと、2200rpmから700Nmものトルクを発生。オフロード走行と牽引を意識(開発段階でDB6を載せたトレーラーを牽引し空力解析をしたというのも泣かせる!)して採用したというメルセデス製9速ATの相性も素晴らしく、鋭いレスポンスと、低速からでも滑らかに力強く伸びていく懐の深さをみせる。
通常時はフロント47%、リヤ53%、最大でリヤに100%のトルクを配分するアクティブセンターデフ、48Vのエレクトリック・アンチコントロール(eARC)、アダプティブトリプルチャンバーエアサスペンションを組み合わせたDBXには、デフォルトの「GT」の他に「スポーツ」、「スポーツ+」、好みの仕様にできる「インディビジュアル」、オフロード用の「テレイン」、「テレイン+」の6種類の走行モードが用意される。
最初のうちは、高速でもワインディングでも乗り心地がよくハンドリングもいいGTモードで十分に事足りると思っていたのだが、ワインディングでセンターコンソールのボタンを押し、スポーツ&スポーツ+モードに変えてみて、すぐにその考えを改めた。
車高が15mm下がるとともに、ダンパーの減衰力が強まり、ステアリングも重くなるスポーツモードでは、9速ATのシフトタイミングも変わり、各ギヤを6500rpmまで引っ張って加速する。
コーナーでの挙動もまた見事で、クイックかつ剛性の高いステアリングに対して前脚がしっかりと追従するうえに、後脚も見事にシンクロしてジワっと粘ってくれる。またその姿勢も終始フラットで安定しているので、絶大な安心感と自信をもって、高速&タイトコーナーも走り抜けることができる。
スポーツ+モードにすると、車高は変わらないものの、脚も硬くステアリングも重くなるのに加え、9速ATはレブリミットの7000rpmいっぱいまでエンジンを振り回すようになるので、よりパフォーマンスがアップするのだが、いずれも脚がバタついたり、跳ねたりせずにピタッと路面を捉え続けるのには、正直に言って驚いた。
どうりで昨年のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードで、ワークスドライバーのダレン・ターナーがプロトタイプでの走行直後に「フリックウォール(ヒルクライム後半のシケイン。タイムを左右する重要なセクション)の動きが素晴らしい!」と、ホクホク顔で降りてきたわけだ。
今回はラッキーなことに、街中、高速、ワインディング、日中、夜間、ドライ、ウェットとあらゆるシチュエーションで試乗できたのだが、あらゆるシチュエーションでも乗り心地が良く、遮音性も高く想像以上にストレスフリーでドライブすることができた。
DB11に比べて肩まわり、背中まわりがゆったりとしたシートや、試乗車が履いていたピレリのオールシーズン用スコーピオン・ゼロのアタリの柔らかさも良い方向に作用していると思われるが、DBXの〝流して良し、飛ばして良し〞の足捌きは、見事という他ない。
我々の期待を遥かに超える素晴らしい仕上がり
近年、アストンマーティン各モデルのハンドリングの向上ぶりには目を見張るものがあるが、それら全ては、かつてロータスで辣腕を振るったチーフエンジニア、マット・ベッカーの真摯な仕事の賜物だ。たった1人のエンジニアの力でそんなに変わるものか? と思われるかもしれないが、これだから自動車は面白いのである!
残念ながら、オフロードでのパフォーマンスを試すことはできなかったが、72km/h未満で作動するテレインでは車高が20mm、48km/h未満で作動するテレイン+ではさらに車高が25mm上昇。ギヤボックスも路面状況に応じて2速、または1速にホールドされる上にデフロックも加わり、高い悪路走破性と500mmの渡河能力を発揮するという。
一方、試乗前に個人的に気になっていたのは、そのクオリティについてだ。というのも新型車というだけでなく、稼働したばかりの新工場、初挑戦のジャンルと、初モノ尽くしの中で立ち上げたファーストロットから、しっかりとクオリティを維持できるのか? と老婆心ながら心配していたからだ。
以前話を聞いたキャリブレーション・シニアマネージャーを務めるイアン・ハートレーは「大丈夫ですよ。今までのアストンマーティンとは違いファミリー・ユースがメインとなるので、品質、信頼性の確保には、より気を遣っています」と胸を張っていたが、結論を言うと、彼の言う通りだった。
パネルの曲面に合わせながら、部分的にエッジを立てるなどメリハリの効いたレザーを中心に手に触れるところは自然素材を配したインテリアは、従来のアストンマーティンの世界観そのもの。その反面、センターコンソールの裏側に樹脂パーツを多用し軽量化の努力も払われているのも特徴だ。
また、様々な情報を表示するメーター、センターの12.3インチのディスプレイを介したインフォテイメント・システムは他モデルでも定評のあるもので、標準装備される360度サラウンドカメラは、狭い箇所通り抜けや、駐車時などにとても重宝した。
リヤシートはルーフにかけて絞り込まれているボディスタイルゆえ、頭上の圧迫感がないか気になっていたが、1060mmのレッグルーム、広大なグラスルーフの効果もあって、十二分にリラックスできるスペースを確保している。
また発表会の席上で、ボディの汚れ方にまで留意してエアロダイナミクスを追求したり、ドアをサイドシルを覆う形状にして乗員のスーツやドレスの裾が汚れないような配慮をしたというアナウンスがあったが、雨天時の乗り降りでも、履いていた白いパンツが汚れるようなことはなかったことも、付け加えておきたい。
今やロールス・ロイスやランボルギーニまでが高級SUV市場に参入する世の中で最後発となるDBXが、どのような仕上がりを見せているのか? 気になっていた方も多いと思うが、その中身は我々の期待を遥かに超えるものだった。この存在感と完成度は、ライバルたちにとって、脅威以外の何ものでもないだろう。
【specification】アストン・マーティンDBX
車両本体価格(税込)=22,995,000円
全長/全幅/全高=5039/1998/1680mm
ホイールベース=3060mm
車両重量=2245kg
最小回転半径=6.2m
乗車定員=5名
エンジン型式/種類=-/V8DOHC32V+ツインターボ
内径×行程 =83.0×92.0mm
総排気量=3982cc
圧縮比=8.6
最高出力= 550ps(405kW)/6500rpm
最大トルク=700Nm(71.4kg-m)/2200-5000rpm
トランスミッション形式=9速AT
サスペンション形式=前 Wウイッシュボーン/エア 後 マルチリンク/エア
ブレーキ=前/後 Vディスク/Vディスク
タイヤ(ホイール)=前 285/40YR22(10J) 後 325/35YR22(11.5J)
問い合わせ先=アストンマーティンジャパンリミテッド https://www.astonmartin.com/ja
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