キャンピングカーの保有台数は2005年から3倍増に!
国際福祉機器展(2024年10月2日〜4日、於:東京ビッグサイト)で、ちょっと変わったトヨタ「ハイエース」が展示された。 移動式ミストサウナの「NUKUMARU(ぬくまる)」だ。キャンピングカービルダーが作成したコンセプトモデルではなく、トヨタ本社が手掛けた本気のカスタムハイエースである。
トヨタが配布する資料には「NUKUMARU〜迎えに来てくれるお風呂」という副題がついており、「NUKUMARUは移動式で本格的な蒸気浴(ミストサウナ)を堪能できる専用モビリティ」と表現している。
ベース車は、ハイエースのスーパーロング・ワイドボディ・ハイルーフで、ボディ寸法は全長5380mmx全幅1880mmx全高2285mm。入口は車体左の側面にあり、低い三段のステップを上がって車内に入ると、そこはいきなりお風呂場。木のぬくもりがあり、気持ちがホッとする。
ここでは、着替えと化粧室となっており、その隣の折りたたみドアを開けると、そこがミストサウナになる。展示会場ではミストは出していなかったが、実際にミストサウナに入ると、ひとりでは十分なスペースがあると実感した。
ミストサウナ1回で使う水の量は約330cc。また、髪を洗うためのシャワーは人によって水量や時間に若干の差があるという。ミストサウナの仕組みだが、操作としてはボタンひとつで湯沸かし器のように簡単に作動する。専用設備は車体後部に設置しているが、各種機材は比較的コンパクトな印象を受けた。
この車両は2号機で、1月に発生した石川県の能登半島地震での被災地支援に出かけた実車となる。開発担当者が自ら、被災地に出向き3週間に渡り、ほぼ24時間体制で稼働させたとのこと。
使用する水は最初、金沢から20Lタンクで7~8本を運んで対応し、その後は開発者自身が現地の水道施設の復興を手伝いながら、そこからの給水を実現した。24時間で使う水量は20L強で、利用者は50人前後。
利用者の多くは、被災地でさまざまな支援に訪れていた人。現地での入浴施設の利用は、被災した人たちが優先するという状況にあった。トヨタ関係者が現地を離れてから、地元のNPO法人にNUKUMARU 2号機の運用を任せて、5月末まで現地での支援に協力し続けた。
その間、車両に大きなトラブルはなく、製品としての耐久性が確認できた。トヨタ関係者「サービスとしての価値が認められたことを実感できた」と支援事業を振り返った。その後、スキー場施設など向けにレンタルするなど、多様な目的でNJKUMARUは活躍しているところだ。
また、NUKUMARU 1号機は、長野県飯山市で地域社会への貢献として定常的に活躍している。そのほか、トヨタでは移動式トイレ「モバイルトイレ」の量産を開始した。NUKUMARUと同じく能登半島地震での被災地支援に出かけ、また各種イベントなどでの活用も期待されている。
このようなキャンピングカーの進化系ともいえる、自動車メーカーの試みは特種な事例だ。それでも、キャンピングカー市場全体が拡大している今、キャンピングカーに対する理解や興味がユーザーの間で高まっていることは確かだ。
コンちゃんと一緒に各地を巡りながら、そう思う。
話を具体化するため、統計データをご紹介したい。日本RV協会によると、直近2023年の国内キャンピングカー保有台数は15万5000台。これは、同調査を開始した2005年と比べて3倍に達する大きな市場成長だ。
購入後の利用用途に関するアンケート調査では、「旅行(43.2%)」とほぼ半数を占め、次いで「ペットと旅行(33.1%)」と同じ旅行でもワンちゃんやネコちゃんなどペットと過ごす空間と時間の大切さを挙げる人が多い。
また、このアンケートではあえて「キャンプ(8.5%)」「アウトドア(7.9%)」という項目もあるが、上位2つの「旅行」とキャンプは、いわゆるオートキャンプをどう位置づけるかで、データの捉え方が違ってくるだろう。
一方で、ユーザーの声として「災害時にペットと離れ離れにならなくてよかった」、「余震が怖くて自宅で寝ていられなかった」など、「有事」における利便性を挙げる人もいる。
本連載でもこれまで、キャンピングカーを「有事と平時」の両面から考えてきたが、キャンピングカーユーザーの多くは、「もしもの場合のバックアップとしての空間」という認識があることは確かだ。見方を変えると、一般ユーザーとしては「もしもの場合への備えとして購入」とまでは言い切れないと思う。
また、コロナ禍でリモートオフィスという観点も浮上はしたものの、公衆でのマスク着用が個人の判断になって以降、実際に筆者のようにリモートオフィスとしてキャンピングカーを活用する事例はかなり少ない印象だ。キャンピングカーはその本筋である「旅行のためのツール」だと言える。
最後に、直近でのキャンピングカー市場のトレンドをご紹介しておきたい。それは、市場の2極化だ。ひとつは、フィアット「デュカト」をベースとした高級化路線。ハイエースの上級カスタマイズからの移行や、これまでキャンピングカーに興味がなかった富裕層が購入するケースが増えてきた。もうひとつは、コンちゃんのような、いわゆるライトキャンパー需要の拡大だ。
ユーザー層はヤングファミリーや、ヤングカップルで、「ノア・ヴォクシー」、「セレナ」、「アルファード・ヴェルファイア」などのミニバンや、各種SUVからの乗り換え組である。「デュカト」は複数台所有の家庭が少なくないが、ライトキャンパーは1台所有で日常生活から旅行まで幅広い利用を好むユーザーである。
そうしたトレンドの波に乗ろうと、日産は「キャラバン」に次いで「セレナ」でも車内後部を木目調のリビングルームのように演出した「マイルーム」を近く導入する。キャンピングカーの世界は今後も、、さらなる広がりを見せそうだ。
この記事を書いた人
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。日本自動車ジャーナリスト協会会員。一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。海外モーターショーなどテレビ解説。近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラファイムシフト、自動運転、EV等の車両電動化、情報通信のテレマティクス、そして高齢ドライバー問題や公共交通再編など。
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