オーバーランドのベース車としてジムニー5ドアがハマりそう
7月上旬から異例の猛暑が続く、日本列島。ハイエースキャンパーのコンちゃんとは、海や山にちょくちょく出かけるものの、熱帯夜続きで車中泊はさすがにつらい。海岸などでのアクティビティはほどほどに、夜はホテルや旅館のお世話になる機会が少なくない。
そんな7月、東京ビッグサイトで開催された東京キャンピングカーショーの出展車両についてネットがザワついた。名古屋を本拠地に輸入車や自動車部品販売を手掛けるホワイトハウスが、スズキ「ジムニー5ドア」をベースとしたキャンピングカー仕様を初公開したのだ。
同ショーは7月20〜21日の2日間開催だったので、現車を確認するために21日に現地を訪れた。会場の奥手に、ジムニーを象徴する外装色「キネティックイエロー」の車体、リフトアップして足元にはTOYO OPEN COUNTRY R/T。
ホワイトハウスといえば近年、独自開発の電動ポップアップルーフで注目を集めているが、それをジムニー5ドア用に設定した。展示パネルには、ボディ寸法が全長3850mm×全幅1645mm×全高2005mmとある。展示ブームのまわりにはガード用のロープが貼られて、ショー来場者は実車に近づくことができなかった。ショー会場内でこうした「触れない展示車」はこの1台だけ。
そんなガード用ロープ越しに、ユーザーや他の展示社関係者から様々な声が聞こえてきた。
「おお、これかー、5ドア。でっかいなぁ」、「まさに、和製ゲレンデの風貌だ」、「シンプルにかっこいい!」、「あれ、5ドアってスズキでもう売ってるんだっけ?」といった、ベース車両に対する関心の高さと、5ドアだからこそ実現したこうした迫力あるモデファイに対する驚きの声である。
ご存知の方も多いと思うが、日本市場向けのジムニーは軽自動車で、登録車(乗用車)としては「ジムニーシエラ」と呼ぶ。海外では軽自動車規定がないため、日本のジムニーシエラが、グローバルでのジムニーとなる。生産は日本とインドで行われており、5ドア車は海外向けの製造と販売が始まっているが、日本向けについてスズキから正式発表はまだない。
実は、筆者はコンちゃんがウチに来る少し前まで、現行ジムニー(軽自動車)のオーナーだった。2018年のフルモデルチェンジでいち早くオーダーを入れたので、一般的にはその時点で1年以上待ちと言われ、その後には2年〜3年待ちと需要が拡大する前に納車された。様々なシーンで2年半、約2万km走行した。
当時、ジムニーの米澤宏之チーフエンジニアには何度も取材したり、意見交換してきたが、ことある度に「5ドアの可能性」についてしつこく聞いたものだ。
その際、米澤氏は「とにかく、生産がオーダーに対して追いついていない状況を改善することが先決。それが少し落ち着いてから、ユーザーからの声をしっかり聞いて、その先について様々な仕様の量産を考えていきたい」と言うにとどめていた。その後、コロナ禍に入ってから、海外での5ドア車公道テストの様子がスパイフォトされるようになり、5ドアの存在が明らかになっていったという経緯がある。
さて、今回のジムニー5ドアの展示車だが、キャンピングカーとかキャンパーという部類のクルマには見えない。いわゆる「オーバーランド」のイメージが濃厚だ。
オーバーランドは、自由気ままに自然の中でクルマと共に生きるというイメージのライフスタイルを指し、日本よりも欧米での認知度が高いトレンドである。ベースとなるモデルは、主にSUVで、ピックアップトラックも含まれることが多い。
欧米でキャンピングカーというと、アメリカでは大型バス級のサイズ感のモデルが多く、また欧州では古くから牽引型が普及してきた。そうした中で、富裕層を中心にアウトドアのさらにもう一歩先のイメージでのワイルドな楽しみ方として、新車SUVをオーバーランド仕様に架装するようになった。日系ブランドではレクサスが昨年から、オーバーランドのイメージで製品普及を始めている。
一方、日本では他の国や地域と比べて、乗用ミニバン文化が市場に深く浸透しているという特徴から、ハイエースやタウンエースなどをベースとしたバンコン(バンコンバージョン)や、N-BOXなどの軽キャンパーがキャンピングカーの主流だ。直近ではフィアット「デュカド」をベース車として国内で正規購入して架装するビジネスモデルが広がっているところだ。
こうした中、日本版オーバーランド系として、トヨタ「ハイラックス」を使ったモデルを仕立てるキャンピングカービルダーが徐々に増えてきている。ただ、価格も1000万円超えとなり庶民ではなかなか手が届かない。そこに、ちょうど良いオーバーランドのベース車として、ジムニー5ドアがハマりそうなのだ。
そういえば、スズキが都内で7月上旬に開催した、次世代技術に関する報道陣向け説明会でジムニー関連の話が出た。電動化部門の関係者が、筆者の「ジムニーはどうするのか?」という問いに対して興味深い回答をしたのだ。
スズキは、自社で独自に新開発したeアクスルを初公開。モーター、インバーター、ギアの3機能を一体化させたもので、これをBEV、プラグインハイブリッド、ハイブリッドで共有化するという。
駆動方式はFFで、四輪駆動の場合はリアに別途のeアクスルを置くという、いわゆる電動四駆となるという。そこで、「ジムニーはどうなるのか?」と聞いたところ、「現行のようなメカニカル四駆を残した電動化とするか、それともリアeアクスルとするか、ぞれぞれの可能性を検討中だ」というのだ。つまり、いずれの手法をとっても次期ジムニーは電動化することになる。
登場時期は、次期欧州環境規制のEURO7と、ジムニーの仕向け地(販売国)での環境規制の関係から考えて、2020年代後半か2030年代初頭になるのかもしれない。それまでの間に、日本でも現行ジムニーシエラの5ドアが登場する可能性は十分ある。
コンちゃんとはこれからもずっと一緒にやっていくとして、ジムニーシエラ5ドアのオーバーランドもかなり気になるところだ。
この記事を書いた人
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。日本自動車ジャーナリスト協会会員。一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。海外モーターショーなどテレビ解説。近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラファイムシフト、自動運転、EV等の車両電動化、情報通信のテレマティクス、そして高齢ドライバー問題や公共交通再編など。
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