ポルシェとBMW。クルマ好きなら、いや走り好きなら、一度は手に入れたくなるブランドだ。それはなぜか?RR+フラット6だったり、FR+ストレート6といった、我々クルマ好きの琴線に触れる、連綿と受け継がれたフィロソフィーがこの2ブランドにはあるからではないだろうか。モータージャーナリストの島下泰久氏に、歴代モデルとのエピソードを交えて、それぞれの魅力を語っていただいた。
誰もが惹かれるポルシェとBMW
ポルシェそしてBMW。ここで私があれこれ講釈を垂れるまでもなく、クルマ好きの皆さんならいつも気になり、走り好きの方々は常にチェックを欠かさないブランドだろう。もちろん自分も例外ではなく、過去に色々乗ってきたし、最新モデルは常にチェックしている。そして、古いモデルへの興味も尽きない。
振り返って数えてみたら、私はこれまで7台の911を乗り継いでいた。全部がRRのMTで、996GT3前期型と991カレラ前期型は、それぞれ2回ずつ買っているという……。ミッドシップでもPDKでも、他にいいモデルがあることは知っているのに結局ここに行き着いてしまう。今は911GT3……といっても現行モデルはオーダーが終了しているので後期型が欲しいと思いつつ、もう普通に売ってくれないブランドになってしまったので、思案しているところだったりする。
一方、BMWは先日Z1を買い逃して悲嘆に暮れたばかりだ。過去に乗っていて今も印象深いのはE36型の318isクーペ。4気筒でもエンジンは凄まじく滑らかだったし、好バランスのFRのフットワークは最高だった。
さらに言えば、後席にも荷室にも十分なスペースのあるパッケージングも素晴らしかった。これもFRの大きなメリットである。
クルマ好き、走り好きに響くドイツ車と、両ブランドはついひと括りにしてしまいがちだが、こうして乗り較べてきてつくづく思うのは、両社はまったく違ったクルマを作っているということだ。逆に共通点があるとすれば、それは形態的な何かではなく、根底に譲れないものを持ったブランドだということだろうか。
ポルシェのそれは、やはり水平対向エンジンとRRレイアウトだ。今やSUVからスポーツサルーンまで様々なラインナップが揃い、スポーツカーだけ見てもミッドシップも4WDも選べる。そしてこれからは電動化の時代となっていきそうだが、ブランドのアイコン、あるいは御本尊には水平対向エンジンを車体の後端に積み後輪を駆動する911が変わらず在る。これはポルシェにとっての絶対不可侵領域と言っていいはずだ。
乱暴に言えば、すべてのポルシェは911の派生である。デザインにしても走りにしても、絶対的な道標として911があることが、ポルシェのすべてのクルマをあるひとつの方向に導いている。それがブランドの絶対的な強さに繋がっているのは間違いない。
BMWで言えば、それは直列6気筒エンジンにFRレイアウトということになる。こちらも同様に、ストレートシックスは今や特別なモデルでしか選ぶことは叶わず、前輪駆動のモデルも増えてきた。しかもMハイパフォーマンスモデルすら4WD化が進められていて、ピュアなFRは数を減らしつつある状況だ。
けれど、ストレートシックス+FRこそがBMWだという思いは、ユーザーにはもちろん作り手の側にも未だ濃密にあることは間違いない。でなければ、あんなハンドリングのクルマが出来るはずがない。4気筒エンジンだって、開発者達はきっと「6気筒には負けない」と思っているはずだ。指標として、そこに揺るぎはない。
そんなポルシェとBMWのフィロソフィーを今に色濃く体現したモデルを改めて試した。ポルシェ・911カレラT、そしてBMW・M2クーペの2台だ。
連綿と受け継がれるそれぞれのフィロソフィー
誰をも、これぞポルシェだとストレートに納得させるに違いないのが911カレラTである。3L水平対向6気筒ツインターボエンジンのスペックは最高出力385psでカレラと変わらないが、組み合わされるのはショートストロークの7速MT。低回転域から過給エンジンであることを一切感じさせないナチュラルなレスポンス、そして遮音材を省いたことで、車体後方からよりダイレクトに耳に届くようになったサウンドは、それだけでドライバーをゾクゾクさせるには十分と言える。
実際の車重にはさほど変わりはないのに、フットワークが一層軽やかに感じられるのは、リアホイールステアなどのデバイスの効果だろうか。アクセルを踏み込んだ時のリアから力強く押し出す感じも、やはり紛うかたなき911で、鞭を入れればもちろんのこと、飛ばしていなくても走りのこの上ない充足感を味わえるのだ。
続いて乗り込んだBMW M2は乗り込んだ瞬間から、まるで鎧を着込んだかのような重厚感に包まれる。先代の軽やかな感覚とは違って、もっと全身でパワーを誇示している。そんな印象である。
3L直列6気筒ツインターボエンジンは、いかにも高圧縮のハイチューンユニットという趣で、右足の動きに対して弾けるように呼応する。低回転域でのわずかにラフな感覚が回すほどに澄んでいく辺りは、さすがストレートシックス。ついつい高回転域まで引っ張ってしまう。
フットワークは、日常域からFRらしさを強くアピールしてくるわけではない。むしろ路面を掻きむしるほどのグリップ感の方が前面に出ている。らしさが出てくるのはペースを上げていった時。これぞニュートラルステアという旋回感覚に、やはりこうでなくっちゃという気にさせるのだ。
ポルシェは成り立ちからしてピュアなスポーツカーであり、シンプルにしていくほど、それが際立つ。対するBMWは元々は優れた素性を誇る乗用車で、その素性を引き出してやることで持てるスポーツ性が一層浮き彫りになってくる。そんな構図と言えるだろうか。実はまったく違ったクルマ作りだというのは、まさにそういう意味。水平対向エンジンにRRという独特のパッケージングから魅入られる人もいれば、研ぎ澄まされた速い“ハコ”にロマンを抱く人もいるだろう。それぞれの違いがそれぞれの面白さに繋がっている。
とは言え時代の変化は急である。ポルシェはラインナップの電動化を急速に進めている。BMWも同様。さらに新しい5シリーズなど、室内でゲームが出来ることを標榜するなどソフトウェア志向を強めていたりもする。
そうした変化の中で、どんなエッセンスが最後まで残るのかは、ジャーナリスト目線ではとても興味深い。1人のクルマ好きとしては、少しばかりの不安と寂しさもあるが、ともあれ言えるのは、いずれのブランドも見て乗って走らせて楽しいクルマを作り続けているというだけでなく、こうして語りたくなるストーリーに満ちているということである。そう、クルマ好き、走り好きならどうしたって惹かれずにはいられないのが、ポルシェでありBMWなのだ。
【SPECIFICATION】BMW M2
■車両本体価格(税込)=9,580,000円
■全長×全幅×全高=4580×1885×1410mm
■ホイールベース=2745mm
■車両重量=1730kg
■エンジン種類/排気量=直6DOHC24V+ツインターボ/2992cc
■最高出力=460ps(338kw)/6250rpm
■最大トルク=550Nm(56.1kg-m)/2650-5870rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション=前:ストラット、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前:275/35R19、後:285/30R20
問い合わせ先=BMWジャパン TEL0120-269-437
【SPECIFICATION】PORSCHE 911 CARRERA T
■車両本体価格(税込)=17,570,000円
■全長×全幅×全高=4530×1852×1293mm
■ホイールベース=2450mm
■車両重量=1470kg
■エンジン種類/排気量=水平対向6DOHC24V+ツインターボ/2981cc
■最高出力=385ps(283kw)/6500rpm
■最大トルク=450Nm(45.9kg-m)/1950-5000rpm
■トランスミッション=7速MT
■サスペンション=前:ストラット、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前:245/35ZR20、後:305/30ZR20
問い合わせ先=ポルシェジャパン TEL0120-846-911
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