今回はベンチマーク(指標)として自動車業界をリードするメルセデス・ベンツのEクラスについて、近年(W212~W213)のモデルから日本導入が待ち遠しい発表されたばかりの最新モデル(W214)まで、各時代のトピックから自動車のトレンドがどのように変化して、或いは変化せずにきたかを見出して、ベンチマークだからこその自動車産業を牽引するEクラスの魅力や価値に業界視点とユーザー視点から迫るコラムをお届けします。
Eクラスの歴史と伝統
Eクラスは、いつの時代も最先端技術を搭載して販売的にもメルセデス・ベンツの主力モデルとして事業の中核を担ってきたモデルの一つで、その最新モデルのW214は今年(2023年)の4月に発表され、既に世界中から注目されています。
Eクラスは、ルーツとされるW136(モデル170)が1936年に登場して以来、W120とW110、W114とW115、W123、W124、W210、W211、W212、W213、そして、W214とルーツの起源から数えると90年近くの長い歴史を持つメルセデス・ベンツを代表するモデルです。
つまり、メルセデス・ベンツが発明したガソリン自動車の誕生以来、脈々と受け継がれてきた理念や伝統を継承してきたモデルで、その蓄積された経験やノウハウは世界でも類を見ないと言っても過言ではありません。
長い歴史を持つモデルに共通して言えることは、いつの時代も一定数以上のユーザーニーズが存在していて、ブランドや自動車メーカーにとっても有意義であることが必要であると思います。
現在のEクラスは、Eセグメントと呼ばれるアッパーミドルサイズに位置しており、同じセグメントにはBMW 5シリーズやアウディA6、キャデラックCT5 、レクサスESなどがあります。
往年のテイストと最新技術のW212
2009年に登場した(W214から数えて先々代モデルにあたる)W212は、威厳のあるデザインに軽量高強度の超高張力鋼板を多用することで、先のW211に対してボディ剛性を箇所によっては30%ほど向上させた強靭なボディで高い衝突安全性能と走行性能を実現しています。
安全面では(日本仕様にも)2011年に自動運転の先駆けとも言える部分自動運転の「レーダーセーフティーパッケージ」(世界初、5個のミリ波レーダーとカメラを用いたシステム)を搭載。自車の速度に応じて先行車との車間を適切に保持する前走車追従型のクルーズコントロール機能「ディストロニック・プラス」、衝突の回避や被害軽減を支援する「PRE-SAFEブレーキ」、ドライバーの疲労や不注意などで自車が車線から外れている際にステアリングを微振動させてドライバーに警告、場合によってはコースを修正する「アクティブレーンキーピングアシスト」といった予防安全のための各種運転支援機能を備え、現在で言うところの自動運転レベル1(運転支援:システムが前後・左右のいずれかの車両制御を実施)を実現していました。
当時、これだけの機能を搭載していた市販(量産)モデルは世界でもほぼ皆無で、メルセデス・ベンツはその後、Eクラスに限らず予防安全機能の強化を図り同じ機能を搭載するモデルラインアップを拡充していきますが、Eクラスに搭載されたことによって他ブランドも含め多くのユーザーに予防安全の機能が認知され普及が促されていったと想定されます。
パワートレイン面では、同じく2011年にBlueEFFICIENCY(環境への効率対応)と称され、スプレーガイデッド直噴技術による「BlueDIRECT」3.5LV型6気筒自然吸気エンジン〔M276〕をE 350に搭載、このエンジンは成層燃焼による希薄燃焼(リーンバーン)と理論空燃比による均質燃焼、それらを組み合わせた均質成層燃焼の各燃焼モードによって高い環境性能(当時、このクラスでは驚異的なJC08モード12.4km/L)と高い最高出力(306ps/6500rpm)と最大トルク(370N・m/3500-5250rpm)を両立させ、当時、最高レベルの排ガス識別記号RBA(平成21年規制75%減認定のNOx触媒付き直噴エンジン)も取得するといった、類まれなる性能を持ち合わせていました。
燃焼制御の観点では現在においても市販車として最高峰の技術で、成層燃焼による希薄燃焼が環境性能につながる熱効率への効果が高いとされる自然吸気エンジンとしては、一つのゴールであったのではないでしょうか。
さらに、このエンジンにはE 300用として3.5Lの排気量や基本構造はそのままに制御系のチューニング等を変更して環境性能(JC08モード12.8km/L)、最高出力(252ps/6500rpm)と最大トルク(340N・m/3500-4500rpm)のさらに環境性能の高い別仕様が存在していたことも特徴で、メルセデス・ベンツのエンジンへのこだわりが感じられます。
走行面では、「DIRECT CONTROLサスペンション」と称される状況に応じてダンパーのオイル流量をバイパス経路によって変えるセレクティブダンピングシステムを搭載することで、快適な乗り心地と安定したコーナリングを両立しており、さらに別途「AIRMATIC」(エアサスペンション)搭載モデルも存在していました。
今では多くのモデルに搭載されているフルタイム四輪駆動「4MATIC」(日本にはE 300 4MATICを導入)ですが、当時、既に用意されていたことからもEクラスがいかに幅広いユーザーを想定したモデルであるかが伺えます。
その後、W212は2013年に大幅な外観デザインの変更が施されました(便宜上ここから後期モデル)。
安全面では前方を認識するカメラがステレオ(2ケ)化されて実現した空間認知機能と6D-Visionによるアルゴリズムによって危険の認識が可能となり「PRE-SAFEブレーキ」に飛び出し検知や歩行者検知の機能が追加され、さらに「ディストロニック・プラス」にステアリングアシスト機能が備わり、現在で言うところの自動運転レベル2(特定条件下での自動運転機能=レベル1の組み合わせで車線を維持しながら前のクルマに付いて走る等)を実現、現在の水準と比べても遜色のない、当時としては最高水準の予防安全、部分自動運転を実現しています。
パワートレイン面では新開発の2.0L直列4気筒ターボエンジン〔M274〕も搭載され、市販(量産)車としては世界初となる直噴ターボエンジンでの成層燃焼による希薄燃焼と、理論空燃比による均質燃焼、それらを組み合わせた均質成層燃焼の各燃焼モードによって(前述の〔M276〕と同じ燃焼の形態で同様に排ガス識別記号RBAも取得)、高い環境性能(JC08モード15.5km/L)と必要にして十分な最高出力(211ps/5500rpm)と最大トルク(350N・m/1200-4000rpm)を達成しています。
CASE時代を象徴するW213
2016年に登場した(先代モデル=販売としては現行モデルの)W213は、W212に引き続き軽量高強度の超高張力鋼板を多用しつつフロントフェンダーやボンネット、トランクリッドやフロント&リアエンドの大部分に軽いアルミニウム素材を積極的に採用、重量の増加を抑えつつ高いボディ剛性を確保しています。
また、全幅を1850mmとW212(1855mm)より-5mmしたこともポイントで、たった5mmですがこれによって全幅1850㎜規格の駐車場が利用できるのは日本などのユーザーにとってはメリットです。
W213は登場以来、CASE(Connected:コネクティッド、Autonomous:自動運転、Shared&Services:シェアとサービス、Electric:電動化)時代を象徴するように新たな各機能やサービスが随時追加され進化を続けてきました。
安全面では「インテリジェントドライブ」と称される、予防安全につながる部分自動運転の機能を更に進化させ、前走車追従とステアリングアシスト機能を持つ「ドライブパイロット」に、ウインカー操作のみで車線変更を自動で行う「アクティブレーンチェンジングアシスト」が追加され、新たに衝突時の衝撃音から乗員の耳を守る「PRE-SAFE®サウンド」(世界初)と、側面衝突が不可避であることを検知すると衝突側前席バックレストのサイドサポートに内蔵されたエアチャンバーが瞬時に膨張することで、乗員をドアから遠ざけ衝撃の軽減を図る「PRE-SAFE®インパルスサイド」(世界初)などを装備して安全機能を充実させました。
パワートレインではRDE(実路走行試験)規制の導入前に対応したBlueTEC(有害物質を大幅に低減する画期的な排出ガス浄化システム)と称される新開発の2.0L直列4気筒ディーゼルターボエンジン〔OM654〕も搭載され、高い環境性能(JC08モード21.0km/L)と優れた最高出力(194ps/3800rpm)と最大トルク(400N・m/1600-2800rpm)を実現しています。
このエンジンは先行してRDEに対応していて静粛性にも優れ、ディーゼルエンジンとして現在の水準でも高いレベルにあると言えます。
走行面では「AGILITY CONTROLサスペンション」としてW212からのセレクティブダンピングシステムが正常進化して搭載され、快適な乗り心地と安定したコーナリングを両立、また、W212同様に別途「AIRMATIC」(エアサスペンション)搭載モデルも存在しました。
2017年にはEクラス初となるプラグインハイブリッドモデルが追加され、2.0L直列4気筒ターボエンジンと高出力電気モーターを最適に使い分け、エンジンとハイブリッドとBEV(Battery Electric Vehicle:バッテリー型電気自動車)、それぞれのメリットを活かして高い環境性能(JC08モード15.7km/L)とシステム全体で最高出力(286PS)と最大トルク(550N・m)もの高い動力性能を両立しています。
また、緊急時の通報や、スマートフォンから車両状態の確認やエアコン、ナビゲーションの設定、リモートパーキングアシストの操作を可能とする「Mercedes me connect」も標準搭載され、コネクティッドの面でもCASE時代をリードする基幹モデルとして同ブランドはもちろん、当時から現在につながる世界の自動車産業を牽引する役割を担ってきました。
2018年にはさらにCASE時代を象徴する「シェアカー・プラス」を新車を購入したユーザーへ、購入後3年間無料の総合保証プログラムである「メルセデス・ケア」期間中に、希望するモデルを3回無料で利用できる貸出サービスも導入され、普段は自分の愛車に乗りつつ、特別な時には選んだシェアカーを利用できるシェアカーサービスも導入されました。
2019年にはエンジンのダウンサイジング化と電動化がより一層進み、新開発の1.5L直列4気筒ターボエンジン〔M264〕に「BSG(Belt-driven Starter Generator」と「48V電気システム」を備え、高い環境性能(WLTCモード12.9km/L ※WLTCモードはJC08モードよりも実走行に近くて厳しい値とされる)を実現、また、エンジン単体の最高出力(184ps/5800-6100rpm)と最大トルク(280N・m/3000-4000rpm)をBSGによって特に発進時に補うことでスムースな走りを実現しています。
BSGとは発電機とエンジン始動スターター機能を兼ねる電気モーターで、ベルトを介して走行もアシストします。
2020年にはW213の外観が大幅に変更されました(便宜上ここからW213後期モデル)。
安全面ではステレオマルチパーパスカメラとレーダーセンサーの機能が高度化され、周囲の交通状況をより的確に把握することが可能になり機能が大幅に強化されました。
また、ハンズオフ検知機能の使い勝手向上のためステアリングのトルク検知から静電検知方式に変更されました。
パワートレイン面では(日本でも)復活が話題になった3.0L直列6気筒ターボエンジン〔M256〕も新たに導入され、ISG(Integrated Starter Generator)や48V電気システムなどの新技術によって高い環境性能(WLTCモード11.1km/L)とエンジン単体でもハイパワーの最高出力(367ps/5500-6100rpm)と最大トルク(500N・m/1600-4500rpm)を両立しています。
ISGとは発電機とエンジン始動スターター機能を兼ねる電気モーターで、発進時のアシストはもちろん、さらにエンジンのアイドリングをサポートして安定させ、アイドリングの回転数を下げることも可能にしています。
そして、対話型インフォテインメントシステムの「MBUX(Mercedes-Benz User Experience)」に日本初のARナビゲーションを採用、ARナビゲーションとは拡張現実(AR)技術を搭載したナビゲーションのことで、進行方向が実際の路上の映像上に表示されるので、複雑な道路形状の交差点などで進む方向をわかりやすくするための機能です。
また、音声認識機能である“ハイ メルセデス”の呼びかけでシステムは起動され、目的地の入力、電話による通話、音楽の選択、メッセージの入力や読み上げ、気象情報の確認といった多くのインフォテインメントシステムの機能を音声で利用することができ、さらにジェスチャー(Vサイン)によって予めセットした機能を表示させる機能も備えられました。
購入といった側面ではW214発売直前の今が、熟成されたW213を手に入れるラストチャンスでデザインやインテリアが気に入っている方には一つの選択肢であると思われます。
デジタル化がさらに進んだ最新モデルのW214
これまでは近年のモデルを振り返ってきましたが、ここからは未だ日本にどういった内容にて導入されるのかは未定ですが、いよいよW214についてです。
安全面では「インテリジェントドライブ」がさらに進化して自動運転レベル2としては最高峰の機能(特定条件下での自動運転機能)が搭載されます。
今回、新たに「ジャンクションスタートオフ」と称される交差点での安全性を高める機能が追加され、交差点を横断する際にドライバーディスプレイに周辺の状況を知らせることで危険の回避をサポート、それでも進もうとする場合には警告して注意を喚起、さらにブレーキをかけて車両が進むのを防ぎます。また、ドライバーはアクセルペダルを踏むことでこの機能をキャンセルすることができます。
そして、法規的に認められていることが条件ですが、自動運転レベル4に該当する「自動バレーパーキング」を「インテリジェントパーキングパイロット」のインストールと「Mercedes me connect」を利用することで可能にする機能も搭載されています。
パワートレイン面では全てがハイブリッドモデルとなり(逆に捉えれば全てエンジンを搭載)、第4世代のプラグインハイブリッドが全体の半分を占めるとされており、2.0L直列4気筒ターボエンジン(M254)はエンジン単体で最高出力(204ps/5800rpm)と最大トルク(320N・m/1600-4000rpm)、2.0L直列4気筒ディーゼルターボエンジン(OM654M)はエンジン単体で最高出力(197ps/3600rpm)と最大トルク(440N・m/1800-2800rpm)、それらにISGによるモーターアシスト(23ps、205 N・m)が組み合わせられることによって環境性能と動力性能が両立されます。
走行面ではW213に引き続き「AGILITY CONTROLサスペンション」が搭載され、さらに「AIRMATIC」(エアサスペンション)仕様にはEクラスとして初めて最大角度4.5°の「リア・アクスルステアリング」が搭載されます。
そして、W214のメイントピックと言っても過言ではないインフォテインメント面では「MBUXスーパースクリーン」と称されるEQSやEQE等に搭載される「MBUXハイパースクリーン」に対してドライバーディスプレイが独立したタイプです。
「MBUX」は大幅に進歩しており、ゼロレイヤー設計による階層選択の排除や3Dドライバーディスプレイ、オンライン会議、ミュージックストリーミング等のエンターテイメントやインテリアアシスタント機能の強化、スマートフォンによるデジタルキー利用の拡充、さらにOTA通信によるアップデートで機能は随時強化されていきます。
また、「ENERGIZING COMFORT」と称されるウェルネスプログラムでは乗り物酔いを防ぐプログラムが装備され、さらにスマートウォッチを介してバイタルデータを分析することで健康を管理するプログラムでは、バイオフィードバック機能の追加が予定されています。
まとめ
自動車業界をリードするEクラスについて、近年から最新モデルまでのトレンドを鑑みると世界初の技術が満載であることやCASEに象徴される次世代化がいかに進んできたかがわかります。
例えば、環境対応に直結するエンジンはダウンサイジング化が進み、今やEセグメントにおいても2.0L以下の直列4気筒が主流の状況で、ハイブリッドは基本になっています。
2020年代に入ってからは特にインフォテインメント面で情報やエンタメといったサービス提供などの進化や充実に重きがおかれて数々のアップデートが実施され、さらに従来は無かったOTA(Over The Air)通信によるソフトウェアアップデートによって同じクルマでも進化するといった変化が見られます。
しかし、同時に走行に伴うハード面、つまり、ボディやサスペンション、エンジンなどといったクルマ本体についての開発や進化は不変で、Eクラスもベンチマークとして進化を続けて新モデルが登場する度に新たな感動を今後も提供していくのではないでしょうか。
最新のEクラスであるW214をCASE軸で整理するとConnected面では「MBUX」が進化を続け、スマートフォンと車両の連携はもちろんのこと各種情報やエンターテイメントの提供までを行い、Autonomous面では自動運転レベル4として限定的ではあるものの無人バレーパーキングの提供を見据え(ドイツのシュツットガルト空港では試験導入済み)、Shared&Services面ではデジタルキーによって車両の共有やシェアカー事業の適用性を高め、Electric面ではラインアップの全てがハイブリッドモデルで、全体の半分をプラグインハイブリッドモデルが占めるといった状況です。
もはやCASEが一般化された現在、Eクラスは最新モデルのW214においても自動車業界の最先端で際立っており、戦略的にエクスクルーシブ化が進んでいるメルセデス・ベンツのブランドオリジナリティを体現するモデルと言えるのではないでしょうか。
特に安全面においてメルセデス・ベンツは常に最善を目指して最先端の安全機能を搭載し続けており、さらに過去にはサポカー補助金制度設立の先駆けとして交通事故ゼロを目指して予防安全機能を無償で装着する「メルセデス レーダーセーフティ 無料キャンペーン」も実施、「自動車を発明した会社として安全には責任がある」という企業理念に基づいて安全面を中軸に据え、さらに環境やCX、DXといった面でも次世代に向けEクラスで自動車業界をリードするという役割はやはり大きいと思います。
参考リンク)
Mercedes-Benz Media
https://media.mercedes-benz.com/
メルセデス・ベンツ日本 メディア
https://media.mercedes-benz.jp/
自動運転レベル(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/001226541.pdf
この記事を書いた人
自動車4社を経てアビームコンサルティング。企画業務を中心にCASE、DX×CX、セールス&マーケティング、広報、渉外、認証、R&D、工場管理、生産技術、製造等、自動車産業の幅広い経験をベースに現在は業界研究を中心に活動。特にCASEとエンジンが専門で日本車とドイツ車が得意領域。
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