第三の扉を持ったスペシャリティ
1964年に登場したフォード・マスタングは、スペシャリティカーというジャンルを確立したことによって、自動車史上特筆に値する車種となった。また、この初代マスタングが世界に与えた影響はそれだけではなく、ファストバック・スタイルの流行もそのひとつと言えるだろう。当初のマスタングはノッチバックのハードトップのみだったが、1965年型からはファストバックを追加。年々大きく迫力あるスタイルにリファインされていったそれは、日本でもフォロワーを生んだのである。
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その代表例として真っ先に挙げられるのが、トヨタのセリカLBであろう。これについて述べるには、まずベースとなるセリカについて触れなければなるまい。1970年に誕生した初代セリカは、我が国初のスペシャリティカーであった。新奇で見栄えの良いデザインと、実用的な4座のキャビンを備えた、スポーツカー風味の乗用車――というコンセプトは、前述の通りマスタングのそれを日本的に翻案したものだ。そのスタイリングは、前年の東京モーターショーに出品されたコンセプトカーEX-1のモチーフを量産化した、という体のものである。
メカニカル・コンポーネンツは、同時に開発された中級乗用車カリーナと共有しており、前ストラット/後4リンクのサスペンションやエンジンなどが共通のものとなっていた。セリカでは、DOHCの2T-Gエンジンを積むトップグレード・1600GTを唯一の例外として、グレードを設定せず、ST/LT/ETの3種の外装と8種の内装、1.4/1.6/1.6ツインキャブの4気筒OHVエンジン3種、3AT/4MT/5MTの3種のトランスミッションを用意。これらを自由に組み合わせる“フルチョイス・システム”というユニークな販売方法も採用した(これもマスタングに影響されたもの)。こうして世に出たセリカは、登場と同時に大ヒットとなった。
当初のセリカもマスタング同様にノッチバック・クーペのみであったが、ハッチゲートを持つリフトバック(セリカLB)を1973年4月に追加した。これは前年の東京モーターショーで発表した「SV-1」を市販化したもので、前述のEX-1がセリカとはだいぶかけ離れた形であったのと比べると、LBのスタイリングはSV-1にかなり近いものであった。
セリカLBはファストバック・スタイルを採用し、ルーフからリアエンドにかけてなだらかなスロープを描いたラインが、後端でスポイラー状に持ち上がる形となっていたが、これは先にデビューしていた三菱のコルト・ギャランGTOにも通じるもので、元を辿ればどちらもマスタングからの影響である。クーペでは横型のテールランプであったリアエンドは5本の縦型テールとなり、フロントマスクも下あごのしゃくれた独自の形状のものが与えられていた。
このLB用のエンジンには1.6LのOHVとDOHCがあり、クーペ同様に1600GTが設定されていたが、LB専用のトップグレードとして、2L DOHCである18R-Gを搭載した2000GTも登場している。この18R-GはすでにマークⅡに採用されていたエンジンで、最高出力145psを発揮。2L車にはOHCもあり、このエンジンはクーペにも搭載されている。また、のちにはクーペにも2000GTが加えられた。
1975年に行われたマイナーチェンジでは、クーペとともにボディサイズを若干拡大。すでにモデル末期である初代セリカがさらに長く生き延びたのは、排ガス対策のせいもあったようだ。LBはボディ前後のデザインを変更し、特徴的な5本テールは3本に変更。このとき2LのGTとGTVに、衝撃吸収バンパーがオプション設定された。これはアメリカンなルックスが魅力であったが、重量増による走行性の低下を嫌う声も少なくなかったようだ。こうして初代セリカLBおよびクーペは1977年まで生産されたのである。
幅を詰めて、後は細部を直すだけ…と思いきや、さにあらず!
さて、初代セリカLBの1/24スケール・プラモデルは、アオシマの後期型がよく知られているところであろう。1980年代前半に製品化されたもので、現在も容易に入手できるキットである。前期型LBのキットには、ヤマダ/童友社のものがあり、これは最近(2023年3月)再販された。ただしこれは、共通シャシーに合わせて設計されているため、スケールが少々大きく、1/22くらいということになる。
前期型のキットとしては、特に名作として語られるマルイのものもあったが、現在は入手が難しい。1/24スケールで正確に前期型セリカLBを作ろうと思えば、アオシマの後期型をベースに改造せざるをえないわけだが、これがなかなか困難である。アオシマのキットはちょっと形が直線的すぎて……という以上に、幅があまりにも広いからだ。1/24スケールとしては3~4mmほど広いらしく、キットとしてはまとまってはいるのだが、改造を行うとすると色々と違いが目についてくる、といった感じである。
ここでお目にかけている作例は、その難題をクリアーした前期化アオシマLBだ。その困難をどのように乗り越えたかというと、これはやはり正攻法でボディの幅を詰めているのだが、それだけではなく、ハセガワ製クーペのボディからも必要な部分を切り出して入れ替えることで、より完成度の高い作品としている。
ひとつ特に述べておきたいのはシャシーについてである。普通に考えればアオシマのシャシーを使えばよいのだが、このシャシーは前期型LBとは全く違うのだ。実車の解説で述べた通り、1975年のマイチェンでセリカは寸法が拡大されているのだが、これは実際のところ、中身だけ先にフルチェンジしたというのに近い。アオシマ製LBとハセガワ製クーペでシャシーが完全に別物に見えるのは、これが理由である。実車LBの裏面を確認したところ、前期型LBのシャシーの様子(燃料タンクの位置や形状も含め)は初期型クーペと同じということがわかったので、作例はハセガワのものに置き換えている。
また、フロントのバンパーやグリルは「国産名車コレクション」の1/24ミニカーを分解、そのパーツを使用した。かなり贅沢なパーツ流用だが、作例を真似して前期LBを作りたい場合、バンパーについては、アオシマのキットのパーツを幅詰めして使うのもよいだろう。その際は、ウィンカー部を塞ぐだけでなく、パーツそのものが頬がこけたような形状なので、そこのボリュームを増すとよいと思われる。また、フロントグリルは、前述の童友社のパーツを流用、あるいは複製して使うのも手であろう。作例の実際の工作については、工程写真とそのキャプションをご参照いただきたい。