小型キャブオーバーの傑作車
日産のバネットは小型ワンボックスのバン/ワゴンとして日本を代表する車種のひとつであった。その名は今もNV200バネットとして続いている。バネットの初代モデルの登場は1978年の11月のことで、それまで存在していたサニーキャブ/チェリーキャブの後継車種としてデビューした形だった。
【画像11枚】充実の兆しが現れたチェリーバネットの1979年版カタログを見る!
サニーキャブ/チェリーキャブにも乗用仕様(日産ではワンボックスのワゴンをコーチと称した)はあったが、この初代バネットではコーチをより乗用車志向、レジャー志向を強めたモデルとし、商品力を強化していったのが特徴である。エンジンは車名の通りサニーと同じく直列4気筒OHVのA型を搭載、1.2LのA12と1.4LのA14があったが、前者はトラックとバンにのみ使用、後者はコーチとトラックに設定されている。ライトバンにはハイルーフも用意されていた。言うまでもなく、「サニー~」と「チェリー~」の違いは販売店によるもので、両者の差異はごく僅かである。
翌1979年7月には車種追加を行いバリエーションを拡大。トラックのみにあったロングボディがライトバンとコーチにも加わった。このロングボディは、運転席/助手席ドアの後が延長されて、そこに縦長のウィンドウが嵌るのが特徴である。バンではロングボディも6人乗りまでだが、コーチのロングボディは10人乗りとなる。コーチにもハイルーフが加わったが、これはロングには用意されない。バンには新たに1.4L車も追加され、こちらはヘッドライトがコーチと同じ丸4灯となり、1.2L車との外観上の識別点となる。
1980年3月には、新たな兄弟としてダットサンバネットがラインナップに加わった。そして同年6月には、コーチにSGLとSGLサンルーフを新設。このSGLこそ、ワンボックスカーと言えば思い出される回転対座シートを、国産車で初めて採用したモデルである。なお、SGLサンルーフはハイルーフのみの設定であった。またこのとき、コーチのエンジンを1.5LのA15にランクアップさせている。
この回転対座シートの採用とそれによるバネットの人気は、トヨタを大いに慌てさせたという。この後も1982年9月にはワイドボディ/高級志向の派生車種ラルゴがデビュー。同年10月にはマイナーチェンジで、ライトバンにもSGL同様の角型4灯ライトが採用され、回転対座シート採用の新グレードFL系が設定されるなどしている。さらに1984年10月には、前後にガラスサンルーフを備えた(フロントはチルト式、リアはスライド式)パノラマルーフを導入するなどし、初代バネットは大いに充実したモデルライフを全うしたのである。
日産としては自社生産のバネットはこの初代と二代目(1985-1994年)のみで、以後はマツダ・ボンゴのOEMとなり、そして後継モデルのNV200バネットへとバトンタッチしている。車名は二代目の途中でバネットに統合された。
男性モデルは表紙のほか1カットしか登場せず
ここでお見せしているカタログは、1979年7月版のチェリーバネットのものである。前述の、最初の車種追加が行われた直後のバージョンだ。サイズは299×249mm(縦×横)、表紙を含めて全24ページ。カタログとしては特に変わった点はなく、折りたたみとなったページもない。全体に軽快な印象で仕上げられているが、何よりも大きな特徴は、若い女性のモデルが多数あしらわれているところだろう。勢ぞろいしたと思われるページでの人数はなんと10人! これ以外の男性や子供のモデルは、表紙の文字の中と、コーチの1カットに見つけられるのみで、なかなか徹底している。
回転対座シートの採用は1980年のことなので、このカタログでは未だそうした装備は見ることができない。フルフラットや3列目シートの折り畳み、補助席の収納(9人乗りのみ)などがアピールされているだけである。とは言え、トラックのページまで含めて、全体に楽しげな雰囲気に満ちたカタログだ。10人乗りの場合はシートが4列で、2・3列目は2人掛けとなっており補助席はない。女性モデルを10人用意したのはこの10人乗りをアピールするためであろう、若い女性が10人ぎっちり詰まった写真も掲載されている。