前衛的な、あまりに前衛的な
1955年のデビュー以来、トヨタの高級車として長らく親しまれてきたクラウン。新型クラウンが4種一斉に発表されて度肝を抜いたのは、現在(2023年3月)から半年以上前、2022年7月のことである。SUVやクロスオーバーをラインナップし、セダンでさえも激しい変貌ぶりを見せて注目を浴びた新型クラウンだが、その歴史において、やはりあまりにも激しい変貌を示し、苦い結末に終わったモデルがある。”クジラ”クラウンの愛称で知られる、四代目クラウンである。
【画像42枚】室内もシャシーも再現したクジラクラウンと、その制作工程を見る!
三度目のフルモデルチェンジにより、四代目・S60/70型系クラウンは1971年2月にデビューしたが、同年登場のセドリック/グロリア連合軍にセールス面で惨敗を喫したことは、よく知られている。その失敗は、モデルサイクルの4年を待たず3年半ほどで五代目へと移行してしまうほどの痛手であった。その理由は、“スピンドルシェイプ”と呼ばれた独特のボディフォルムにあった。
スピンドル――つまり紡錘をモチーフとしたこのスタイリングは、丸みが強く、それまでのクラウンが持っていた威厳に少々欠けるものであった。二階建てのフロントグリルはあまりに個性的で、先に発売されていた小型トラック(スタウトやハイラックス)と通じるイメージを持ってしまっていたところも痛かった。何より、バンパーをボディカラーとしたことで、クロームの装飾が不足した印象も与えてしまっていた。
このように先進的すぎたスタイリングであるスピンドルシェイプだが、当時のトヨタの弁によれば、これは何よりも「安全」をイメージしたものであったという。つまり、カドのない丸みを帯びた形=人を傷つける尖った部分を持たない、ということである。とは言えこれはやはり、保守的な高級車ユーザーには容易には受容しにくいものであっただろう。
またこのスタイリングには、クラウンの大事なお得意先である、タクシー業界からの反発も強かったという。スタンダードまでカラードバンパーを採用していたため、事故・損傷時の修理コストが嵩むから、というのがその理由だ。独特のスタイルによる車両感覚の掴みにくさもまた理由のひとつだという。反面、スタンダードですら砲弾型フェンダーミラーやリアガーニッシュも装備されるなど、全モデルがゴージャスな外観となっていたのは特筆すべき部分だ。
この四代目クラウンは、ブランド名がトヨペットからトヨタに変わったのもポイントであった。型式名は「S60」を基本とするが、トヨタは型式の頭に搭載エンジンを示す文字を付けるので、例えば4気筒の5R型エンジンを搭載しているスタンダードでは、RS60となる。中級・上級のモデルでは6気筒のM型エンジン(M-C型/M-D型)のため、MS60だ(スタンダードにも6気筒車MS60はあった)。2ドア・ハードトップはS70型、バン/ワゴンはS66型となる。一般的にはこの世代のクラウン全てをMS60として認識している人も多いだろう。
機構面では先代S50型系を継承し、ペリメーターフレームのシャシーに前ダブルウィッシュボーン/後ろ4リンク+コイルのサスペンションを持つ。エンジンはすべて2Lだが、1971年5月には2.6Lの4M型搭載車を3ナンバー・モデルとして追加。1973年10月にはマイナーチェンジを行い、前後バンパーをメッキとし、Cピラー根元にプレスラインを入れるなど(セダンのみ)、スタイリングをいくらかでもシャープに見せようという努力が行われている。そして1974年10月、フルモデルチェンジで五代目へと生まれ変わったのである。
シガレットケースの複製、しかも一度完成させた作品をリメイク
クジラクラウンについては、ミニカーの数こそ多いものの、プラモデルについてはおそらく旧ヤマダのものが唯一と思われる。金型を引き継いだ童友社からこのキットはリリースされていたが、長らく絶版であった。だが2023年、久しぶりの再販が行われている。このキットは2ドア・ハードトップのSLを再現したもので、上げ底内装を持つ、いかにも古いキットと思わせる内容が特徴だが、ボディの雰囲気はなかなか良い。……と説明をしておいて何だが、ここでお目にかけている作品は、このヤマダ/童友社製キットを改造したものではない。
実はこれは、当時のノベルティであるシガレットケース(新車を購入した際にユーザーに贈呈されるもの)を利用し、スケールモデルとして制作したものなのである。シガレットケースのスケールは通常1/20前後で、このクラウンの場合は1/22であったが、これをまず複製してレジンに置き換え、それを各部切り縮めて1/24スケールとしている。一旦は、シガレットケースの細部モールドを活かしてスーパーデラックス(最上級グレード)として完成させたのだが、これを都合によりタクシーとして仕立て直している。
タクシーと言えば最廉価グレードのスタンダードだが、前述のようにミラーやリアガーニッシュがほぼ共通であるとは言え、フロントグリルやホイール、細部のモールドなどはやはり作り直さなければならない。ボディ自体はシガレットケースの複製であるため、この作品をそのまま真似できるかどうかは無理な話だが、細部の工作については、例えば童友社のクラウンを作り込むにあたっても、参考にできる点が多くあるだろう。制作過程の詳細については写真のキャプション、および後編の記事(の同じく写真に添えたキャプション)で説明しているので、参考にして頂きたい。