国産初の「GT」がDOHC搭載で一層強力に
今ではトラック専業メーカーとなった、いすゞ自動車。同社ではかつて、ヨーロッパ的センスに溢れた名車をいくつも世に送り出してきたが、そのひとつに、ベレットを挙げることができるだろう。ベレットはまた、国産車で初めて「GT」を名乗ったクルマとして、日本の自動車史に名を残す存在である。
【画像41枚】ボディフォルムに自然さを取り戻したベレットとその制作工程を見る!
いすゞは戦後、イギリスのルーツ・グループとの提携によりヒルマン・ミンクスをノックダウン生産し、これを国産化する中で技術を吸収してきた。その成果として1962年に発売されたのが、同社オリジナルの乗用車第一号であるベレルである。ベレルはセドリックやクラウンと同格の中型セダンであったが、それより下のクラスを担う車種として生まれたのが、ベレットであった。ベレットは1963年に発表され、同年11月に発売されている。
ベレルの小型版、という車名の含意が示すように、ベレットのライバルはコロナやブルーバード、スカイラインなどの小型ファミリーカーとなる。それらがどちらかと言えば直線的なボディシェイプであったのに対し、ベレットは丸みを帯びたスタイルであったが、これは卵の殻をイメージしてデザインされたものだという。ボディはモノコック式でレイアウトはFR、サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン、リアがダイアゴナルリンクによるスイングアクスルという独特なもの。エンジンは直列4気筒OHVで、1.5Lガソリンと1.8Lディーゼルの2種類。
ベレットのボディは当初4ドアセダンのみであったが、翌年には2ドアのセダンとクーペもラインナップに加わっている。このクーペというのが前述の国産初の「GT」である1600GTで、その発売は1964年4月のことであった。セダンよりルーフを低くした軽快なボディに、フロントマスクは丸2灯ライト(+フォグランプ)を採用、エンジンは直4 OHV 1.6LにSUツインキャブを装着したG160型を搭載。なお、このGTは前年の東京モーターショーで発表済みであったが、その時は1.5Lエンジンを積む1500GTであった。
ベレットの変更は多岐に渡るので、それにいちいち触れていくと大変であるからここでは省略するが、この1600GTのホットバージョンとして1969年10月に発売されたのがGTRである。これは、同年8月の鈴鹿12時間耐久レースに出場し優勝を飾ったベレットGTXを市販化したというもの。何よりも強力なポイントだったのは、その頃はまだ珍しかったDOHCエンジンを搭載しているという点だ。このエンジンとは、前年デビューの117クーペに搭載されて世に出たG161W型で、三国製ソレックス・キャブレターを2連装し最高出力は120psを発揮、1トンに満たないボディとの組み合わせで最高速度190km/hを実現した。
GTRはエンジンがツインカムであるだけでなく、ブレーキやサスペンションなどシャシーも強化し、ラジアルタイヤを装着。エクステリアも迫力のあるもので、バンパーを左右2分割とし、それとナンバープレートの間にフォグランプを装着した、独自のフロントスタイルが特徴であった。ボンネットを防眩のためつや消しブラックとし、サイドにも黒いストライプをあしらっているのもポイントで、レスオプションも設定されていたが、そのインパクトの強さから、GTRと言えばこのスタイルしか存在しないように思っている方も少なくないだろう。
いすゞ車の例に漏れずベレットも非常にロングライフモデルとなり、1973年まで、実に11年の長きに渡って販売されたのだが、GTRも最後の年までしっかりとラインナップされていた。1971年10月のマイナーチェンジでは、他のモデルと並んでフロントグリルとテールランプのデザインが変更されているが、2分割バンパーとフォグランプ、そして黒ボンネットと黒ストライプはそのままであった。
ベレットらしい小ぢんまりした凝縮感を重視して
ベレットのプラモデルとしては、三共とエルエスの1/32スケール、フジミの1/24スケールのキットがよく知られたところであろう。エルエスはGTRをキット化、同社廃業後は金型がアリイ(マイクロエース)に引き取られ、今も販売されている。このキットは1980年代のリリースであるが、フジミの1/24は2000年代に入ってからの製品。2ドアのクーペのみながら、GTRだけでなくGTもバリエーション展開されており、大型テールと眼鏡グリルの最終型まで製品化しているところが興味深い。
ここでお目にかけている作品は、このフジミ製GTRを制作したものである。と言っても、実はただそのまま組んだものではない。フジミのベレットに関して、そのボディ形状に不満の声はさほど聞かれないが、実車とよくよく比べてみると、色々と違和感があるのも事実である。少々貫禄のある感じで、実車のギュッと引き締まったボディのムードには欠けており、顔周りも直線的で贅肉が多い(グリルのはまる開口部のヘリが分厚い)印象だ。
そこで、ボディの幅を詰めるなどしてそうした印象の払拭を狙い、完成度の向上に挑んでみたのがこの作品なのである。単純に車体の幅が広いのではなく、ボディ下半部のみが広いようなので、一旦ボディを上下に切り分け、腰下のみ幅を詰めてから元に戻すという、複雑な作業を行っている。その改修工作の細かな内容については、写真のキャプション、そして追って公開予定の後編の記事をお読みいただきたい。