コンパクトなクーペボディにFR駆動を組み合わせたリアルスポーツ──という「絶滅危惧種」の筆頭格だったM2の2代目がデビュー。発売は2023年となるが、ここでは量産モデルにいち早く対峙した木村好宏リポーターにその概要をご紹介いただこう!
ボディは先代比で大幅に“成長”、同時に中身は兄貴分に急接近!
BMW M社の開発スタッフは洒落っ気があり、しかも愛飲家が多いらしい。その証拠に、特に尖ったモデルを開発する際にはしばしば強い酒の名前をシークレットコードに使っている。判明しているだけでも、過去にはE90ベースのM3CRTにはラマゾッティ、E92のM3GTSではイエーガーマイスターという具合にラム酒のブランド名を使用している。ちなみに2015年登場の初代M2にも、同様にラム酒の名前がシャーシナンバーの前に付けられていた。
この「M2」という名前には、さらなるエピソードもある。本来なら1シリーズのMモデルだけに、当時は「M1にしよう」という意見もあったのだが、BMW好きならご存じのように往年のハイエンド・ミッドシップスポーツと被ってしまう。そこで結局M2に落ち着いたのだが、奇しくもこれは偶数のモデル名をクーペなどに振り分けるというBMWのマーケティングポリシーにも合致したものとなった。
とはいえ、コンパクト級のモデルでFR駆動を採用し続けることは色々な意味で難しい。実際、BMWも2019年に2シリーズをベースにした1シリーズに前輪駆動用プラットフォームのUKLを採用してFF化。2020年には同じプラットフォームを採用した4枚ドアを持つ2シリーズ・グランクーペ(F44)が発売されるに至り、FR駆動の2シリーズ・クーペの行く末には暗雲が立ち込めるようになっていた。
しかし2021年、BMWは“マルニ”、傑作車として知られる2002の復活と位置付けて2シリーズ・クーペをリニューアル。2世代目(G42)が誕生した。となれば、M2も新型に移行することは必定。2022年6月には、オーストリアのザルツブルグリンク・サーキットでプロトタイプのティザー試乗会が開催されている。ここではカモフラージュされた状態でのテストだったが、リポーターが体感した走りは現行M2比でスタビリティが大幅に向上。同時にワンランク上のスポーティなハンドリングを意識させるもので、パワーアップされた直列6気筒エンジン(S58)も最終スペックを大いに期待させる出来映えだった。
【写真31枚】シリーズ随一の戦闘力を誇る新型M2の詳細写真をギャラリーで見る
そして今回、ミュンヘンのシークレットスタジオでは、量産モデルのスタティック取材が許された。用意されていたのはトロント・レッドと名付けられたボディカラーを纏うM2で、まずエクステリアでリポーターが最初にチェックしたのは、最近のBMWでは物議を醸すことが多いキドニーグリルだ。幸い、というべきか新型M2のそれはM3やM4よりサイズは控えめ。しかし、形状は異形な5角形で中には水平バーを採用するなど、標準的な2シリーズ・クーペとは差別化が図られている。
ボディサイドにまわるとMデザインのドアミラー、そしてオプション装備のカーボン製ルーフが目に入る。車重を6kg軽量化できることに加え、このMカーボンルーフはファッション性も高く、M2を一層エクスクルーシブな存在へと引き上げる要素になること請け合いだ。また、リアエンドは彫刻刀で削られたような造形で、張り出したリアホイールハウスの後端に設けられた縦形のリフレクターも印象的。さらに、トランクリッドのリップスポイラーやディフューザー両脇から突き出す直径100mmの4本出しテールパイプなどもMモデルらしいディテールとして挙げられる。
一方、ボディ自体は従来比で大きくなった。数値的には2001年に登場したE46型ベースのM3よりも100mm長く、38mmワイドという具合。その意味では街乗りにも適していた従来モデルより取り回しが多少気になりそうだが、長くなったホイールベースなどが高速域でのスタビリティ向上、絶対的なシャシーパフォーマンスのアップに貢献していることは間違いない。
それよりも気がかりなのは、従来型に対して新型は車重が嵩んでいることだ。空車重量は旧M2コンペティションよりも150kgも重く、もはやM4のMT仕様と同レベルにある。その大きな理由は、FR専用プラットフォームであるCLARを新型の走りに対応させる目的で大幅に強化したから。とはいえ、こうしたボディの“成長”は純粋なパフォーマンスアップだけではなく、ロードカーとしての快適性向上という副産物も生み出しているという。なお、シャシー関連はデフを含めたリアアクスルを筆頭として大半がM4から移植されたもの。装備面では、フローティングタイプのベンチレーテッド・ディスクブレーキとアクティブ可変制御ダンパーが標準で備わる。タイヤはフロントが19インチ、リアは20インチだが、オプションで20インチと21インチの組み合わせも選択可能になるという。
搭載する3Lツインターボは先代比で最大90psをプラス!
さらに、取材車のインテリアをチェックして最初に目を引いたのは、アルカンターラとレザーで仕上げられたカーボン製スポーツシートである。見るからにホールド性が高そうな形状ながら、シートヒーターなどの快適装備も充実。ドライバーがヘルメットを装着して走る場面を想定して、ヘッドレストが着脱式になっているのも興味深い。また、快適装備を充実させつつ、スタンダードなシートに対して1脚あたりで5.4㎏も軽量なことも魅力的と言える。
そして、インパネ回りでは12.3インチのメーター部と14.9インチのコントロールディスプレイで構成されるカーブド・ディスプレイも最新のMらしい。ドライバーを囲むような形状には、BMWらしいドライバーオリエンテッドの哲学も宿る。もちろん、メニューにはM専用のコンテンツがインストールされており、ステアリングのセンターパッド両側にあるMスイッチで起動。さらに、デジタル時代を象徴する装備も充実している。BMWライブ・コックピット・プラス、あるいはプロフェッショナルをオプションで選ぶとクラウドベースのリアルタイムナビゲーションなどが活用可能で、OTA(オーバージエアー)ソフトウェア・アップデートももちろんできる。
そんな新型M2(G87)の心臓部は、M3/M4に搭載されているものと同様、M社自身の開発になる3L直列6気筒ツインターボで、パワーとトルクは460psと550Nm。このユニットは、バランスの良いストレート6ならではの官能的なサウンドを発することも実証済みだ。組み合わせるトランスミッションは、ZF製の8速スポーツATがスタンダードだが、500ユーロ(約7万4000円)のオプションで6速MTも選べる。MTといえば、かつてはエントリーモデル向けだったが、いまやオプションで選ぶマニアックな装備なのだ。その傾向は特にアメリカ市場で顕著なのだが、時代の流れを感じずにはいられない。なお、駆動方式はFRのみの設定でM3やM4、あるいはM240iのような4WDのxDriveは(現時点では)ない。
では、ダイナミック性能はどうなのかというと、カタログ上の0→100km/h加速は8速ATで4.1秒、MTで4.3秒となる。また、M2は経済性をウンヌンするクルマではないが燃費もATの方が良好で、WLTPモードだと100㎞走行当たりの燃料消費は9.6L(1L当たり約10.4km/L。ちなみにMTは10Lジャスト)となる。一方、最高速度はともに250km/hだが、オプションのMドライバーズ・パッケージを選べば285km/hまで引き上げられる。
この新型M2、生産拠点はメキシコ中部のサン・ルイ・ポトシ工場で、発売開始は2023年4月からを予定。ドイツでの価格は19%の付加価値税込みで7万2800ユーロ(約1060万円)と、M3より1万3000ユーロほど安価な設定となっている。現状、日本での価格は未発表だが、円安の影響で1000万円超えとなれば、メルセデスAMGのA45SやアウディRS3との対決で不利になることは確か。果たしてBMWジャパンがこのクルマにどんなプライスタグを付けるのか? その発表が楽しみではある。
【Specification】BMW M2
■全長×全幅×全高=4580×1887×1403mm
■ホイールベース=2747mm
■トレッド(F:R)=1617/1605mm
■車両重量=1725㎏
■エンジン種類=直6DOHC24V+ツインターボ
■総排気量=2993cc
■最高出力=460ps/6250rpm
■最大トルク=550Nm/2650-5870rpm
■トランスミッション=8速AT(6速MT)
■サスペンション(F:R)=ストラット:5リンク
■ブレーキ(F&R)=Vディスク
■タイヤ(F:R)=275/35ZR19:285/30ZR20
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