「世界中のどんな道でも楽に上質に」をコンセプトにドライバビリティと乗り心地を追求したという新型LX。まさに長年培った信頼性、耐久性、悪路走破性はいうまでもなく上質さをさらに磨き上げた唯一無二のSUVに仕立てられていた。
最悪の場合を想定した究極の作り込み
レクサスのLXとトヨタのランドクルーザーはいわゆる兄弟車で、どちらも地球上の特定の地域で絶大なる支持を受けている。特定の地域とは、路面が舗装されていない砂漠や荒れ地だったり、ガソリンスタンドや人里まで数百キロも離れているようなところである。
プラットフォームにラダーフレームを採用しているのも(あるいはモノコックに変更できないのも)、そういった使用環境を考慮した上での判断だろう。このラダーフレームはGA-Fと呼ばれ、ランクルとLXのフルモデルチェンジを機に刷新されている。ラダーフレームは耐久性や対衝撃性に優れるいっぽうで、乗り心地や静粛性などはモノコックよりも不利な構造となっている。それでもプラットフォームが新しくなって、ランクルも快適性がずいぶん向上したものの、レクサスのバッジを付けるLXにはさらにその上をいく乗り心地や静粛性が求められる。オフロードの走破性だけに特化した設計のほうがよほど簡単だったはずだ。オンロードの快適性も両立させなくてはならず、場合によってはショーファードリブンカーとしても使われるLXの開発が困難を極めたのは想像に難くない。
LXには実に多くの装備や機能や機構が備わっていて、そのすべてを紹介するに紙幅が足りないので、ここではオンロードでの印象に的を絞ってお伝えする。
オンロードでの静粛性はとても高い。アコースティックガラスの採用や吸音材の適材適所配置などが効いているのだろう。風切り音も思ったほど気にならなかった。乗り心地も申し分ない。むしろラダーフレームで比類なきオフロード走破性を備えていることを考慮すれば極上である。
LXにはランクルに装備されていないAHCと呼ばれるサスペンション機構が装着されている。電制ダンパーに金属ばねとガス/油圧併用のばねを組み合わせた大変凝ったもので、各種モードの切替に応じて車高を自動調整するだけでなく、ピッチやロール方向のばね上の動きも制御する。
AHCの守備範囲はエアサスの競合車とほとんど同じで、だったらこんな複雑な機構ではなくエアサスにすればいいのにと思うかもしれない。エアサスの場合、もし空気ばねが壊れると最悪の場合は走行不可になってしまうが、AHCであれば空気ばねの役目を担うガス/油圧ばねが壊れても金属ばねがまだ生きているので走行が続けられるのである。こういったいわゆるフェールセーフ機能が、LXは随所に設けられている。「生きて帰ってくる」は少し大げさな表現かもしれないけれど、開発エンジニアはそこまで考えている。
ステアリングを切ると自然にスッと動いて安定した旋回姿勢に入る所作は最近のレクサスに通じるものだ。巨大なボディでも操舵応答遅れはなく、想像以上に小気味よく向きを変える。オンロードでの操縦性の作り込みでは、オフロードの走破性に影響が出ないよう細心の注意を払ったそうだ。ボディはそこそこ大きいものの、運転席からの視界や見切りが良好なので取り回しは良好だった。
エンジンは3.5LのV6ツインターボのみ。10速ATとのマッチングがよく、どの回転域でも十分なトルクが瞬時に得られる。V8がなくなったことを嘆く一部のファンもおられるようだけれど、これならV8の代役を立派に果たしていると思う。参考までに、今回の燃費は高速道路7割で10.6km/Lだった。約2.5トンの車重にしては上出来である。
室内は、いまどきの流行とは真逆をいくほど、数多の機械式スイッチで溢れている。しかしどのスイッチを機械式のまま残すか、どこに置くかについて、このクルマ特有の使い勝手が熟考された上での景色である。新型LXは変えていいものと駄目なものの分別がきちんと付いたクルマなのだ。
【Specification】レクサス LX600
■全長×全幅×全高=5100×1990×1885mm
■ホイールベース=2850mm
■トレッド(F:R)=1675:1675mm
■車両重量=2590kg
■エンジン種類/排気量=V型6気筒DOHC 24V+ツインターボ/3444cc
■最高出力=415ps(305kW)/5200rpm
■最大トルク=650Nm(66.3kg-m)/2000-3600rpm
■燃料タンク容量=80L(プレミアム)
■トランスミッション=10速AT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:トレーリングリンク
■ブレーキ(F&R)=Vディスク
■タイヤサイズ(F&R)=265/55R20
■車両本体価格(税込)=12,500,000円
■問い合わせ=レクサスインターナショナル ☎ 0800-500-5577