トヨタとの共同開発で生まれた現行型Z4。自社で完結しなかったのは、スポーツカー作りの難しさを熟知してる両社だからこそのタッグであり、その出来栄えはまさに秀逸。ドライビングファンに溢れている一台だ!
BMW謹製ストレート6を全身で感じるスポーツカー
先代のグランドツーリングカー志向から一転、リアルスポーツカーへと原点回帰を果たした現行型Z4。BMWラインナップの中で今、最もスポーツ性の高いモデルだと思う。
誤解を恐れずに言ってBMWはこれまで、M1など特別な例を除けばスポーツカー作りに熱心なブランドではなかった。自社でリアルスポーツカーを作るのではなく、箱のサルーンを高度にチューニングして世のスポーツカーを追いかけまくる方が性に合っていたブランドだと思う。M3などはさしずめその際たる存在だろう。
ロードスターブームに乗ってZ4の先祖というべきZ3を企画したときでさえ、GT性能へのこだわりを捨て切ることはなかった。それゆえ正当進化としての先代Z4が秀でたGTロードスターであったことに何ら不思議はなかったのである。
けれどもBMWはトヨタとの協業でスポーツカーを作る決断を下した。逆にいうと、単独で作るにはリスクが大きかったというわけだ。スポーツカー作りというものはそれだけ、トヨタのように巨大な、もしくはBMWのように高いブランド力を持つメーカーでも、難しいということだろう。
だからこそ今、BMWエンブレムをつけたスポーツロードスターに触れる機会のあることを我々はもっと慈しんでいいと思う。Z4はそれに応えるだけの十分なパフォーマンスを持っている。
なかでもMの文字を戴くグレードM40iをドライブすると、大人のスポーツカーのあるべき姿が透けて見えてくる。今時珍しくガッチリと重々しいステアフィールは、その時々のハンドリングに対するドライバーの想いにとても忠実だ。乗り手が頑張ってクイックなコーナリングを楽しもうとすれば、それに十分に応えてくれるし、一方、今日はさほどやる気がないので穏やかに走りたいと思えば落ち着いた手応えで迎えてくれる。リアアクスル周りの骨太なチューニングと相まって、実にハイレベルなスポーツカーに仕上がっていると思う。
絶対的なダイナミックパフォーマンスのレベルを吟味したところで、我々はサーキットドライバーではないのだから、さほど意味はない。それよりもむしろ、Z4のもつロードスターとしてのカジュアルなドライビングファンにも目を向けるべきだろう。ルーフクローズドでの運動性能は半端なスポーツクーペなどまるで相手にならないくらい高いレベルにあるけれども、寿司屋で酒のツマミを絶賛するようなもので、そこだけ褒められても当のZ4は嬉しくとも何ともないはずだ。
現行型Z4の魅力は何といってもショートホイールベース・ロードスターであること。ソフトトップを開け、山や林や空に囲まれた道へと溶け込むように走り出して初めて本領を発揮する。そこでは絶対的な動力性能の高低などもはや問題でなく、どんな速度域においても、いかに気持ちよく走らせることができるか。それに尽きる。
その点、豊なストレート6サウンドを響かせて走るZ4にはステアリングホイールを握ってアクセルペダルを踏み込むだけで乗り手を気持ちよくさせる能力があった。クルマの所在を常に腰のあたりに感じつつ、音や振動を全身で感じながら加速し、タイトなベントをクイックに抜け、緩やかなコーナーをじっくり駆けぬけたとき、「ああ、クルマの運転が好きで良かった」とまず間違いなく思わせてくれる。それはもちろん”BMWらしさの発露”でもあるというべきで、彼らはあまり経験ないはずのスポーツカーを見事に作り上げたのだった。
ストレート6のフィールを全身で感じることができる最後のBMW製スポーツカーになるのではないか。そこだけが心配だ。
【Specification】BMW Z4 M40i
■全長×全幅×全高=4335×1865×1305㎜
■ホイールベース=2470㎜
■車両重量=1580㎏
■エンジン種類/排気量=直6DOHC24V+ターボ/2997㏄
■最高出力=387ps(285kW)/5800rpm
■最大トルク=500Nm(51.0㎏-m)/1800-5000rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=ストラット:5リンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=255/35ZR19:275/35ZR19
■車両本体価格( 税込)=8,920,000円