ジウジアーロ×ベルトーネ×シムカのトリプルコラボ! シムカ1200Sクーペは完成度の高いパーフェクトなクルマだった

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1934年に設立されたシムカは、フランスのメーカーでありながら、フィアットとの強い結びつきによって大きく発展してきた。ここで紹介する1200は、デザインをジウジアーロが手掛け、ボディはベルトーネが架装するというイタリア色の強いクルマであった。

フランスとイタリアのタッグで生まれたパーフェクトクーペ

ヒストリックカーは国籍やメーカーの個性が明確だと良く言われる。しかし中には会社や車種の生い立ちゆえ、多国籍風の佇まいを持つクルマもある。今回紹介する美しいクーペもその1台に数えられるかもしれない。

車名はシムカ1200Sクーペ。シムカと言えばパリ北西部のナンテールやポワシーに工場を構えていたフランス車だ。しかしこの会社を設立したのはイタリアのトリノで生まれたアンリ・テオドール・ピゴッツィで、フランスに渡った彼はまもなくフィアットのノックダウン生産を始めた。

トポリーノの愛称で知られる初代500も、シムカ・サンクとして売られている。メーカー名のシムカも人名や地名ではなく、自動車車両車体工業会社の頭文字を取ってつけたもので、トリノ・イタリア自動車製造所の頭文字を並べたフィアットにその成り立ちは似ていた。

しかし第2次世界大戦後は、フィアット流のメカニズムを用いながら、独自車種の開発を行うようになる。第一弾は1951年発表のアロンドだった。さらに3年後にはフランス・フォード、1958年にはル・マン24時間レース優勝の経歴もあるタルボを買収。このうちフォードのヴデットはシムカでも販売を続けることになった。

この次に登場したのが大衆車の1000で、シムカ初のリアエンジン方式は、フィアット600をベースに開発したものだ。横置きリーフを用いたウイッシュボーン、コイルスプリングのセミトレーリングアームというサスペンションも似ていた。

リアに縦置きされる直4OHVユニット。鋳鉄製のブロックにアルミのヘッドを組み合わせ、圧縮比を上げることによって1204ccから85psのパワーを絞り出し、178km/hの最高速度をマークした。

しかし直列4気筒OHVエンジンは、フィアットの3ベアリングに対して5ベアリングになっていた。それまでフィアットと関係の深かったアバルトがここに目を付け、ツインカムヘッドや美しいクーペボディを組み合わせたアバルト・シムカ1300/2000を登場させたのは有名だ。

でもシムカ1000にはアバルトが関与しないクーペもあった。1962年に登場したシムカ1000クーペである。メカニズムはベルリーヌとほぼ同じだったが、ボディはイタリアのカロッツェリア、ベルトーネが造形だけでなく架装までを担当した。デザインを手掛けたのはあのジョルジェット・ジウジアーロだった。

5年後、このクーペは大きな進化を果たすこととなる。このとき生まれたのが今回の主役1200Sクーペだ。その名のとおり排気量は944㏄から1204㏄に拡大。ラジエターは後ろから前に移設され、フロントにはグリルが備わった。さらにフロントフードにはラジエターからの熱気を抜くルーバーまでもが加えられた。同じベルトーネ・デザインのランボルギーニ・ミウラに似たディテールである。

クライスラーのロゴが入ったメッシュホイールは、他車種からの流用品とのことだ。

シャシーでは後輪に明確なネガティブキャンバーが付けられ、ウォーム・アンド・ローラーだったステアリングは1969年からラック・アンド・ピニオンへと切り替わっている。

実はこれらのアップデートは、後にベルリーヌにも実施されている。ツインキャブとフロントラジエターは1973年登場のラリー2が採用したし、1.2Lエンジンはその後シムカ初の前輪駆動車1100にも積まれている。生産台数の少なさを生かし、新開発のメカニズムを先行搭載した車種でもあったのだ。

ところでこの間の1963年、シムカはクライスラー傘下になり、1970年からはクライスラー・フランスという社名になっている。同時期に英国ルーツ・グループもクライスラーUKになった。ブランド名は引き続きシムカが使われたものの、ボディには小さくクライスラーの五角形エンブレムが装着されている。アメリカ車風のレザートップもこの時期にオプションに加わったようだ。

いろんな国のいろんなメーカーが関わったヒストリーは複雑だけれど、そんなヒストリーがあったから1200Sは生まれたわけだし、乗ってみると完成度の高さに驚くことになった。

安心して楽しめるスポーツクーペ

乗ってみるとその完成度の高さに驚く。

エクステリア同様、イタリアンGT風の洒落たコックピットに身を置く。空間の広さはフィアット850クーペとアルファロメオ・ジュリア・クーペの中間だ。ただし同じ時代のイタリア車のような、ステアリングが遠い腕を伸ばしたようなドライビングポジションではない。

エンジンはこの時代の4気筒としてはかなり滑らかで、マルチシリンダーかと思うほど。5ベアリングであることを実感する。ラリー3のような爆音はないものの、2500rpmあたりからは吹け上がりが早くなり、サウンドも心地よくなっていく。

インパネは天地の幅が狭く、極めてシンプルなデザイン。おかげで前方の視認性も良好だ。足元のタイヤハウスの張り出しは大きめ。3眼式のメーターは右から速度計、回転計、水温&油圧&燃料計及び各種警告灯となる。

直立したシフトレバーの感触はリアエンジンのフィアットと似ていて、コクコクというタッチが好ましい。ペダルがやや内側にオフセットしているけれど、ヒール・アンド・トゥはしやすい。4輪ディスクのブレーキの効きも信頼できるものだった。

それ以上に感心したのは乗り心地だ。ベースのシムカ1000ベルリーヌも、フィアット流の基本設計とは思えないほどフレンチタッチだったけれど、その美点をこのクーペも受け継いでいた。しっとりという言葉が似合うほどだ。

 

シートは小ぶりだが体をしっかりと支えてくれる。リアシートはミニマムで、どちらかといえばラゲッジスペース。荷物固定用のベルトも装備されていた。ラジエターはフロント側の鼻先に設置されたため、トランクはラジエター、スペアタイヤ、ラゲッジスペースというレイアウトに。

東京都内の道で味わったハンドリングもまたレベルが高かった。ベルリーヌに比べると身のこなしは軽快で、立ち上がりでは後輪駆動ならではの気持ち良さが堪能できるけれど、そこに危うさは微塵もない。この時代のリアエンジンというと、多かれ少なかれトリッキーな性格を予想しがちだけれど、実際は安心して楽しめるスポーツクーペに仕上がっていた。

信号待ちで止まっていると、フロントフード上のルーバーから熱気がユラユラと立ち上がっていた。車格を超えた落ち着いた走りを味わってきたこともあって、はるかに大きなエンジンを積むGTに乗っているような錯覚に陥った。千葉県在住のオーナーは先日、京都まで自走で往復したそうだが、自分も1200Sクーペのオーナーだったら同じ行動を取ったかもしれない。

米国資本の影響が強まる中、フランスとイタリアのタッグは素晴らしい仕事をした。シムカというブランドのイメージさえ変えさせるパーフェクトクーペだった。

SPECIFICATION【SIMCA 1200S COUPE】
■全長×全幅×全高:3997×1524×1255mm
■ホイールベース:2232mm
■車両重量:890kg
■エンジン:直列4気筒OHV
■総排気量:1204cc
■最高出力:85ps/6200r.p.m.
■最大トルク:10.7kg-m/4500r.p.m.
■サスペンション(F/R):トランスバースリーフ/セミトレーリングアーム
■ブレーキ(F&R):ディスク
■タイヤ(F&R):145SR13

フォト:内藤敬仁/T.Naito Tipoより転載

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