アンダー800kgのエクスタシー
ジネッタに乗るのは10年以上ぶりになる。これまで経験があるのはG4とG12。いかにもレース好きのバックヤードビルダーが造ったモデルという雰囲気で、とにかく軽く、運転感覚はダイレクト。スパルタンそのもので、本気で走らせると手強い面もある、といったイメージを今でも持っている。
今回試乗したG40Rは、イギリスで行われているワンメイクレース用の車両のロードゴーイングモデルであり、パイプフレームにFRPボディのFRという構成。全長3748×全幅1642×全高1045mmのコンパクトなボディで車両重量は795kg。こういった生粋のライトウェイト・スポーツに触れる機会が少なくなったこともあって、実車を目の当たりにすると驚異的にコンパクトだ。それでも古き佳き時代のレーシングカーのように艶めかしいボディは意外なほど存在感がある。オレンジのボディカラーにシルバーのセンターラインという派手な装いも手伝って、走ることだけに歓びを見出す者へ、弾けるようなパッションを振りまいてくるからだ。
ドアを開けて低いコクピットに滑り込むのは想像するほど大変でもない。サイドシルがそれほど太くはなく、スイッと跨げるからだ。ステアリングはクイックリリース式で、取り外せばさらに乗降性は良くなるが、それを使うことなく収まることができた。眼前にはアナログ式のタコメーターとスピードメーター、センターには水温、油圧、燃料の3連メーターが並ぶ。その下のダッシュボードには各種スイッチ。ほとんどがボタン式になっているのがちょっと現代的だ。エンジンを始動する際には、まずPOWERと書かれたメインスイッチを長押し、次いでIGNスイッチ、そうして初めてENGINE STARTのスイッチでエンジンに火が入る。止めるときはPOWERでシステムダウン。間違ってENGINE STARTを押すとセルが回ってしまうので要注意だ。ロードゴーイングカーらしいところはエアコン付きなところ。試乗した日は外気温が30度近かったので助かった。
エンジンは直列4気筒2.0L NAで最高出力177ps/6700rpm、最大トルク19.5㎏-m/5000rpm。ハイパフォーマンスというほどではないが、ライトウェイトなボディには十分以上だろう。アイドリング回転数がちょっと高かったこともあり、アクセルを踏まずにクラッチを繋いでいくだけでスルスルと走り出す。一般的な交通の流れのなかでは2000rpmでも十分。気難しさなどは皆無で、その攻撃的なスタイリングからすると拍子抜けするぐらいに運転しやすい。
空いたカントリーロード風の道で右足に力を込めていけば、結構な勇ましさのエキゾーストノートとともにリニアな感覚で加速していった。3000rpmぐらいまでは野太いサウンドだが、4000rpmあたりから少しづつ甲高さが加わり、5000rpmを超えると咆哮のような雄叫びにかわる。NAのスポーティなエンジンの典型のように、回転上昇とともにパワーが極めてリニアに高まっていく様が快感だ。軽量だから十二分に速いが、今どきのスーパースポーツのように速すぎて踏み切れないなんてこともない。
ブレーキはまだアタリが付いていないとみえて初期のバイト感はあまりなく、踏力を強めてコントロールさせるタイプ。現代的な楽チンなクルマしか知らないとコツを掴まなくてはならないが、昔ながらのスポーツカーを知っている人ならばすぐに馴染むだろう。
エンジンもそうだが、ハンドリングもリニアで想像以上に扱いやすかった。FRだからさほど飛ばしていなくても常に適度な荷重がフロントにかかっていて、ステアリング操作に対して素直にノーズが反応する。サスペンションに突っ張るような硬さはなく、ジワリジワリとロールしていきながら自然な感覚でヨーも発生していく。ケータハムのようにコーナリング中にギャップに乗るとすっ飛んでいきそうなことはなく、かといってロータスほどしなやかでもない。安定感と柔軟性がほどよくバランスしていて、これなら安心して攻め込んでいけそうだ。今回は限界を試すようなステージがなかったので見極められなかったが、信頼できるハンドリングだ。
【SPECIFICATION】GINETTA G40R
■全長×全幅×全高:3748×1642×1045mm
■ホイールベース:2250mm
■トレッド(F/R):1196/1232mm
■車両重量:795kg
■エンジン形式:直列4気筒DOHC
■総排気量:1999cc
■最高出力:177ps/6700r.p.m.
■最大トルク:19.5kg-m/5000r.p.m.
■サスペンション(F&R):ダブルウィッシュボーン
■タイヤ(F&R):205/40R17