物理的に見れば、クラシックカーの再生産はフルレストアと似たようなところが多く、全く不可能ではない。だがそれを公道走行可能なものとしてメーカーが実現するのは容易ではない。流行の”復刻”にアルヴィスが名乗りをあげた。
アルヴィスは時空を超えて
一昔前なら考えもつかなかったことだが、往年の銘車の”コンティニュエーション(=継続生産)”がブームになっている。
18台が生産される予定だったライトウェイトEタイプが結果的に12台に留まっていた史実に着目したジャガーは、残りの6台を継続生産。さらに同社は工場火災で焼失した9台分のXKSSも復刻させ、さらには100台生産の予定が75台で止まっていたDタイプも同様の理屈で生み出した。一方ランドローバーは太古のシリーズ1や初代レンジローバーを蘇らせているし、アストンマーティンはDB4GTザガートやDB5のボンドカーを復刻しているといった具合である。
これらの事実を突き付けられて、マニアが最初に考えるのは”なぜそれが可能なのか?”ということだろう。物理的に可能であることは百も承知だが、自動車の世界は排ガス規制や衝突安全といった規則が厳しくなり続けている。英国特有の少数生産車の優遇制度を利用したとしても、クラシックカーを堂々と継続生産することなどまかり通らないはず。
復刻を行った彼らの理屈は以下の通りだ。ジャガーやアストンマーティンはナンバーを取得することができない”サーキット専用”というスタイルに活路を見出し、ランドローバーはレストアベースを入手して、それをフルレストアするという名目にして完全な新車を往年の年式のまま蘇らせている。
そんな流れに追従しようと考えたのか、全くの偶然なのか、英国のアルヴィスも復刻に名乗りをあげた。レッドトライアングルのエンブレムで有名なこのメイクスがコンティニュエーションシリーズと銘打った”太古の新車”の生産はすでにはじまっている。
アルヴィスの継続生産のからくりは奇跡的なものだ。同社は1937年に150台分の認証を受けていたが、戦争の勃発もあり、77台分が未使用になっていた。現代のアルヴィスを率いるエンスージァストであるアラン・ソートはこの77台分の生産枠の有効性をVOSA(英国車両・運転サービス庁)に問い、IVA(個体車両認証)取得に成功した。
つまりメーカーとしての命脈すら尽きていたアルヴィスが、先に挙げた大メーカーとは異なる、最も正当な手段において1930年代のクルマの再生産を可能にしたのである。もちろん日本におけるナンバー取得も、1937年式車両として可能になっているのだという。
復活なったアルヴィスの我が国における輸入総代理店は明治産業が務める。同社はかつて明治モータースの屋号でアルヴィスの正規輸入を行っていた記録が残されているので、今回のストーリーは同社にとっての継承という意味合いも持っている。
また今回の継続生産で特徴的なのは、77台という生産枠の中では、アルヴィスが1967年に一旦その幕を閉じるまでの多くのモデルを復刻できるという点だろう。戦前のオープンホイールはもちろん、戦後の3リッタークーペモデルの新車を誂えてもらうことができるのだ。ちなみに職人の手作りによる現在のアルヴィス同社の生産能力は年5台程度なので、77台を作るためにはあと15年以上を要する、何ともよくできたストーリーと言えよう。
今回試乗できたコンティニュエーションカーは1937年式でありながら、おそらくここ2年ほどの間に組み上げられた4.3リッターモデルだった。オリジナルの図面や3Dスキャナーを用いて、現代の精度で組み上げた”ヴィンテージカー”である。
そのドライブフィールは拍子抜けするほど軽快で、マニュアル免許さえあれば誰でも、という感じだった。このクルマは亜鉛メッキのラダーフレームにアッシュ材の骨組みを載せ、そこにアルミパネルを固定するという往年の手法で作り上げられているが、機構的には多くのリファインが含まれている。6速オールシンクロ、ブレーキサーボ、電子制御燃料噴射、オルターネーター等々。ヴィンテージカーの純粋主義者が聞いたら卒倒しそうな内容だが、それは捉え方の問題なのだと思う。
ヴィンテージカーに対する知識や運転技術がなくても、これらのモデルを気軽に楽しむ新しいオーナー層の開拓を狙ったもの。そう考えれば、減り続けるしかなかった個体数が増すだけで感謝の念すら湧いてくるはず。それは正真正銘のアルヴィスが生み出すホンモノなのである。英国の古豪の、新たなる挑戦に着目していきたい。
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