【2021バステクフォーラム】大阪舞洲に行った、見た、乗った~まず輸入車に乗ってみる~

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2021年7月9日に、バス専門誌の老舗であるぽると出版主催の「2021バステクフォーラム」が大阪・舞洲スポーツアイランド空の広場で開催されました。バス事業者をはじめ関連業界関係者向けの本フォーラムには、バス実車、特装車、関連用品の計22ブース30社の展示がありました。このフォーラムのトピックはなんと言っても運転試乗ができること。これが好きなために毎回訪れています。ここでは5台あった試乗車(中国製EV3台、ヒュンダイ・ユニバース、アリソン製AT搭載ジェイバス製中型車)の体験記をお届けいたします。

ZF社製ATを搭載したヒュンダイ・ユニバースを再び運転する

5台の試乗車の中から2台選び(というか、事前申し込みの抽選で2台しか当たらなかった)運転試乗しました。1台目がこのバスです。
昨年埼玉スタジアムで開催された「第6回バステクin首都圏」で乗っているのでこれが二度目。今回のコースは、中速ストレート、クランク、半円、高速ストレートを組み合わせた楽しそうなコースだったのでぜひもう一度乗ってみたかったのです。理由は、ZF社製バス専用ATのデキがあまりにも良く、エンジンとのマッチングも上々で運転すれば楽しいし、乗客として乗っていてもNTN(なんて滑らか)なフィーリングに感銘を受けたから。その時も今回も「うちの会社にも導入して欲しいな」という現役のバス運転士のヒソヒソ話を何度も耳にしたことからもこの感覚は間違いないと思います。
こうなる理由は、現在のATやAMT(自動変速マニュアルトランスミッション)車のフィーリングが良くないから。MT時代から運転士が鍛錬してきたNTNな運転技術にこれらの制御技術がまだまだ及ばないからです。運転士の努力を木っ端微塵にしてしまい、「最近の運転士さんって運転がヘタになったんやない?」と乗客に囁かれることもしばしばあります。しかしそれは仕方がないことかもしれません。独ZFと東西横綱を張る米アリソンというメーカーがありますが、アリソン製も国産もメカがトラックと共用なのでどうしてもバスに合わない部分があるためです。日本ではヒュンダイ・ユニバースにしか搭載されていないのが残念です。
ちなみに、同車日本導入にあたってはZFとヒュンダイ共同で日本のあらゆる道路を走りながらセッティングしたとのことです。フィーリングが合うのも宜なるかな。
試乗では、NTNな走行フィーリング、自慢の流体式4段リターダを駆使してのスピードコントロール性の良さを再確認しました。いつまでも運転していたくなり、そのまま場外に出て一般道や阪神高速に行ってしまいたかったくらいでした。
いいことずくめのようですが、致命的とは言えないもののやや残念な点がありました。それはステアリングのフィーリングです。リズムに乗って旋回しようとしたときにステアリングが間に合わず「おっとっとっと」となるのです。重い上に滑らかさに欠けるためなのですが、軽快な走りと合わないため違和感を隠せません。ZFはステアリングシステムも持っているのでそれを採用すれば改善するのは簡単だと思います。この点についてはヒュンダイ・ジャパンの担当者にも伝えました。
試乗車のスペック
ボディタイプ:ハイデッカー
型式:2DG-RD00
全長×全幅×全高:11,990×2,490×3,535(単位はすべてmm)
車両重要・総重量:13,040kg・14,635kg
エンジン:D6HC型直列6気筒WGターボ・インタークーラー・316kW/1,800rpm・2,060N・m/1,200rpm
トランスミッション:ZF社製6AP2000B Coach・前進6段後退1段
シートレイアウト:9列ワイドシート27座席仕様

中国製EVバスを初めて運転する

今回初めて中国製のEVバスを運転したのですが、乗り込んでまず気になるのは独特の香り。乗用車でもメーカーによって原産国によって新車の香りは必ずするもので、人によってはそれが嫌だったり酔ったりすることもあるそうですが、私は新車の匂いも楽しみの一つだし、幸いにして酔うこともないのでそのあたりのことは正直言ってわかりません。しかしこれはちょっと……。

試乗したのはオノエンスターEV 7m車(中国・揚州亜星製)だったのですが、同じく試乗に供されていた他の中国製2車も似た雰囲気の香りがしたのでこれは中国車特有のものでしょう。公共交通機関という用途を考えるとこれは導入したバス会社にクレームがきそうな気がします。

本気で導入させたいのなら少々コストが上がったとしても日本製の内装を使うべきだと思います。特に後述のアルファバスは日本製のワンマン機器を搭載しているし日本に架装拠点もあるのでその気になればできるはずでしょう。
さて運転席に座ります。試乗車には中国車では一般的な左右対称触覚タイプのサイドミラーがついていたので若干違和感があるものの、これはオプションで日本風のアンシンメトリータイプ(イオンモール熱田巡回バスのような運転席側ドアミラータイプ)も選べるので問題ないでしょう。
走り出してみると、当たり前ですがEVなので静かだしモーターゆえにとても滑らかに加速します。ステアリングはロジクールのフォースフィードバック的で、まあ慣れればこんなものかという感じです。特に長時間運転していたいとは思いませんでした。乗客とすればこの静かさと滑らかさはいいでしょう。今度イオンモール熱田に乗りにいってみようと思います。

試乗車のスペック
仕様:7m小型ノンステップバス
型式:JS6690GHBEV
全長×全幅×全高:6,990×2,260×3,040(単位はすべてmm)
車両重量・総重量:6,130kg・8,165kg
モーター:155kW(最高出力)・1,650N・m
駆動バッテリー:CATL社製リチウムイオンバッテリー・95.3kWH
一充電走行距離概算:200km
最高速度:80km/h
乗車定員:座席11+立席25+(車いす1)
※オノエンスターEVにはこのほか9m中型、10.5m大型タイプもあります。

日光に一号車が納入されたアルファバスECITY L10

一昨年のバステクフォーラム東京ラウンドで初めて見たとき、押しボタン、表示器、運賃箱など日本の路線バス仕様にできあがっていたことに驚き、明日にでもどこかの事業者に納車されるのではないかと思いました。
時を経て第一号車が栃木県日光自然博物館に採用され、EVバス”しらかば号”として本年4月24日より運行されています。残念ながら運転はできず乗客体験だけでしたが、これまで各ショーで見た中国製EVのバスに比べて完成度は高いと感じました。前述の通り日本製ワンマン機器が取り付けられていることもあり目に入る景色は見慣れたものなので違和感がないし、走行時の乗り味も悪くありません。
興味深いのはアルファバスジャパンの株主構成で、秋葉原の加賀電子の100%子会社や東北の中古バス会社系の整備会社が名を連ねています。日本仕様を架装する工場も持っています。余談ですが加賀電子と言えば、古い電子少年にとっては秋月電子、九十九電機と並んで忘れられない会社。コダクロームを愛していたのでグループ会社の加賀ハイテックとの付き合いも多かった。そんな加賀電子グループが扱うEVバスはもしかしたらこれまでとは違いおもしろいことが起こるのではないかと期待に胸が膨らみます。

試乗車のスペック
仕様:10.5m大型ノンステップバス
型式:YS6105GBEVA
全長×全幅×全高:10,480×2,485×3,260(単位はすべてmm)
車両総重量:15,730kg
モーター:100kW(定格)・152kW(最高出力)・2,700N・m
総電力量:296kWH
乗車定員:座席23+立席52+(車いす1)

独自技術を投入したF8 series-4 Mini Bus

まずボディデザインがかわいいですね。世界中どこで見ても、ああ中国製あるいは中国製コンポーネントを多用しているなと判断するアイコンの、ツリ目ヘッドライトを使っていないことが大きい。街を走り回る公共交通機関は性能以前にこの点は大事だと思います。
オプションで天井、側面にフレキシブルソーラーパネル搭載でき、座席仕様、レイアウトなどカスタムメイドできることが特徴。福岡に本拠を置くEVモーターズ・ジャパンは元々リチウムイオン電池充放電応用システム開発の会社のため低電費に自信を持っています。また、BMU(バッテリーマネジメントユニット)やインバーターも独自開発するなど、まず中身に興味を惹かれるEVバスです。
今回の試乗車の他にも3輪EV(e-トライク)、大型路線バス、観光バスも揃えています。

試乗車のスペック
仕様:7m小型ノンステップバス
全長×全幅×全高:6,990×2,100×3,050(単位はすべてmm)
車両重量・総重量:5,750kg・7,345kg
モーター:60kW(定格出力)・135kW(最高出力)・1,650N・m
駆動バッテリー:リチウムイオンバッテリー
最高速度:80km/h
乗車定員:座席13あるいは座席11+車いす1

乗り心地に大きな影響を与えるトランスミッション

先ほどATとAMTについて触れましたが、現役運転士の声をよく聞く私としては、元々トランスミッションに興味があることもあり、アリソントランスミッション社のブースを訪れあれこれ訊きました。
薄々感じてはいましたがやはりMT車とAMT車ではスムーズに運転するためのテクニックはかなり違うそうです。AMTほどではないもののATにも当てはまるとか。そこに気づいている運転士もいるようですが、MT、AMT、AT、年式やメーカーの違う様々なバスを運転する運転士に車種に合わせた運転を強いるのは難しいと思うので、AT、AMTのバスばかりの世の中になるまで運転士の苦労と乗客の不満は続きそうです。
基本的に世界統一スペック品なので日本向けだけを改良することは難しいものの、日本のユーザーの声を反映させるべく本国への働きかけは続けており、いくつかは製品に反映されているとのことです。近ごろのアップデートでは、中扉が開いている間はニュートラルになり、閉まると同時にギヤインする機構が加えられました。停車の度にシフトを操作するのは運転リズムが崩れるし、少なからず時間もロスするので嫌だとの評判を私もかなり聞いていたのでこれはだいじな改良です。
試乗車にはエイチ・ディー西広島が所有するジェイバス製中型路線バスが用意されていましたが、残念ながら抽選に漏れたため運転できませんでした。新搭載のアリソン製トルクコンバーターATのフィーリングを試したかったのですが。乗客として乗った感じはAMTより断然良かったので運転もしたかった。

EVバスがおもしろくなってきた

今回のEV3社はメーカーの成り立ちやインポーターの考え方が個性として表われていておもしろかったです。EVバスは、ボディにモーター、インバーター、バッテリーをポンと乗せてできあがりというような単純なイメージで捉えられることが多いと思いますが、事はそんな単純ではなく部品それぞれの性能、組み合わせに知恵と工夫が要りますし、トータル性能向上にはそのあたりの思想や物語があるのか? という点も重要だということを今回感じました。部品が高性能であれば完成品も高性能かと言えばそうではない。部分最適が全体最適にならないということは多いでしょう。また、既存車種を持ちこむだけではきっと普及は難しい。漠然とですがそんなことも思いました。
狭義でも広義でもそんな感じがしたのですが、なんで?ついては別の機会にじっくり書ければと。EVを部品で見て、完成車を見て、そして現社会を俯瞰で見ると何となくお解りいただけるのではないかとは思います。

参考までに各社のウェブサイトを紹介しておきます。

現代自動車ジャパン株式会社
https://www.hyundai-motor.co.jp/universe/index.html
有限会社オノエンジニアリング
http://onoen.net/custom.html
アルファバスジャパン株式会社
https://alfabus-j.com/
株式会社EVモーターズ・ジャパン
http://www.evm-j.com/
アリソントランスミッション
https://www.allisontransmission.com/ja-jp/
(取材・写真・文:大田中秀一)

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