近隣住民から騒音への苦情が原因!?
BMW本社のあるミュンヘンから西に約30kmのヒュルステンフェルドブルック市のマイザッハにある旧空軍用基地の飛行場を整備してBMW Driving Experienceが開業したのが2012年9月。その土地は地元市町村が所有しており、BMWがヒュルステンフェルドブルック市より長期契約で借入れていた。この地は1972年のミュンヘンオリンピック開催期間中にイスラエル人選手団を標的に、パレスチナの武装組織が起こしたテロ事件で、占拠部隊と地元警察との銃撃戦が行われた地としても知られている。
郊外の旧軍用飛行場の立地を活かした130ヘクタールもの広大な敷地では、自動車運転免許を取得したての初心者用の安全運転教室をはじめ、Mモデルを中心としたドライビングテクニックの向上を目指し、楽しみながら質の高いレッスンが受けられるBMW乗りには人気の施設である。また、BMWの社員用の運転技能証取得用の講習・教習施設や一般向けのイベント会場としても活用されている他、BMWやMINI、モータースポーツ関連の広告宣伝写真や映像もこの敷地や敷地内にある旧格納庫内で数多く撮影されている。
昨年秋にはマイザッハ町議会とBMWとの間で、条件付きではあるが2026年8月までの契約延長が行われた。延長条件には、2026年8月以降の延長はなし、騒音対策をする事、地域の経済的付加価値を創出する事という項目が練り込まれ、ヒュルステンフェルドブルックのハンス・ザイデル市長によって承認され、これらの条件を達成できない場合は、マイザッハでのDriving Experienceを終了する事をBMWへ通達していた。
しかし、5月18日に行われたヒュルステンフェルドブルック市議会において、BMWが2026年の契約終了を待たずに、マイザッハからのDriving Experienceの撤退と土地の明け渡しを申し出た事を発表した。BMWからは『秩序ある撤退』を申し出て、ヒュルステンフェルドブルック市とマイザッハの将来的なプロジェクトの為にDriving Experienceの借用地の明け渡しに同意した、とのコメントをしている。
地元紙Merkurによると、ドライビングレッスンには急ブレーキやドリフト等も含まれる為、そのタイヤの軋む音やMモデル独特のエキゾーストノートにより、騒音として度々地元住民から苦情が寄せられており、物議が醸されていたと報じている。
既に2020年の新型コロナウイルスの影響により、ドライビングスクールの実施は休業状態ではあるが、今後は外部受講生向けの事業やイベントを徐々に減らし、BMW社員向けの運転技能講習教習施設としての運営になるだろうとしており、2024年中にはマイザッハの営業を終了するともいわれている。
ザイデル市長は「BMWからの申し出は今年の3月末に既にあった。その決断は正しいと捉えている」とし、「BMWのマイザッハからの撤退は、損失よりもチャンスだと考える。騒音が激しいドライビングレッスンを排除し、新たに企業のオフィスの誘致等、次は静かなビジネスを構想している」とBMWの撤退を喜ぶコメントをしているが、地域住民の中には、「BMWのDriving Experienceは全く気にならなかった。むしろ上空を飛ぶ旅客機の騒音の方が煩い」という者もおり、BMWの撤退は必ずしも騒音問題が大きく争点になったのではないと考えられる。
土地借用の更新条件のひとつに挙げられた『地域の経済的付加価値を創出する事』が練り込まれたが、Driving Experienceの参加者はBMWに直接参加費用を支払う上、遠方からの参加者の大半はBMWミュージアムやWeltといった施設の見学を兼ねた者が多く、BMWの本社があるミュンヘン市へ宿泊する。また、Driving Experienceを受講する者には施設内でケータリングの食事や飲み物が提供されるがゆえに、地元のマイザッハのスーパーマーケットや個人商店で買い物や飲食をする事もまれだ。マイザッハは非常に小さな田舎町とあり、観光娯楽施設や目玉となる土産物等もなく、Driving Experienceの参加者が地域にお金を落とし、経済の活性化に貢献するという事は殆ど望めないがゆえ、この条件はBMWにとっても非常に厳しいものとなっているに違いない。
BMWグループではMINIが先駆けとなって2030年には完全に電動化する事を発表しており、内燃エンジンのドイツ国内製造は2024年で終了し、今後はオーストリアのマグナとイギリスのハムスホール工場のみで生産される等、今後は欧州員会やドイツ政府の指針によりEV化へ加速するとあり、Driving Experienceの今後の動向が気になるところだが、BMWはDriving Experienceが今後どこかへ移転するのか、それとも完全閉鎖となるのか、現時点ではコメントを差し控えている。
この記事を書いた人
武蔵野音楽大学および、オーストリア国立モーツアルテウム音楽院卒業。フリーランスの演奏家を経て、ドイツ国立ミュンヘン大学へ入学。ミュンヘン大学時代にしていた広告代理店でのアルバイトがきっかけでモータースポーツの世界と出会い、異色の転身へ。DTM、ル・マン/スパ/ニュルブルクリンクの欧州三大24hレースを中心に取材・執筆・撮影を行う。趣味は愛車のオープンカーでヨーロッパのアルプスの峠をひたすら走りまくる事。蚤の市散策。
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