高性能スポーツカーの代名詞的存在である911シリーズの中でも、アイコンといえるターボのスタンダードモデルがようやく市場投入された。今回はドイツ・シュツットガルト近郊でクーペとカブリオレのうち後者を試乗。寒空のなかトップを開け放ち、オープンエアドライブの醍醐味を存分に味わってきた。
70psと50Nmをどう考えるか!?
これまでの911では、まずスタンダードのターボが登場した後、モアパワーが与えられたターボSがカタログに追加されるというのが慣例だった。ところが7世代目の992ではその順番が逆になり、Sが先に登場し、今回ターボが追加された。マーケティング的に高性能かつ高価なモデルを先に出して、リッチなユーザーを取り込んでしまおうという意図だろうか。以前、ターボSを十分堪能した者としては、スタンダードのターボに物足りなさを覚えてしまうのではないかと思いつつ、ポルシェ本社の試乗車駐車場へ向かった。
まずは、カタログでターボSとのエンジンスペックを比べてみると、ツインターボを装着した水平対向6気筒エンジンの排気量は3745ccと同一で、最高出力はターボSよりも70ps低い580ps、最大トルクは50Nm少ない750Nmへとデチューン。ただし、同じく8速PDKとPTM付きの4WDを介してのダイナミック性能は、0→100km/h加速が2.8秒(カブリオレは2.9秒)、最高速度は320km/hで、ターボSの2.7秒と330km/hをほんのわずかに下回る程度にすぎない。ちなみに、ボディのスリーサイズ、重量もカタログ上ではターボ、ターボSとも同一だ。
ドイツの11月はすでに冬の真っ只中だが、この日は薄曇りで外気温は約10度。思い切ってキャンバストップを開けて試乗をスタートする。後方から響くエキゾーストノートはターボSに比べてやや低く、控えめな感じもするが、もしこれが気にいらないのならエンド部がオーバル形状のスポーツエキゾーストシステムをオプションで注文すればいい。
まずはアウトバーンで郊外を目指すが、ここではPAA(ポルシェ・アダプティブ・エアロダイナミック)と名付けられたエアマネジメントがフロント冷却口の開口面積を自動調整、そしてエアブレーキ機能も有するターボSと同サイズのリアスポイラーが理想的なダウンフォースを発生し、卓越した高速安定性を披露してくれる。
しかも、後席に設けられたネット形状のエアバイザーのおかげで、サイドウィンドーを上げておけば160km/hを超えてもキャビン内に冷たい風を巻き込むことはなく、ヒーターが心地よくパッセンジャーを温めてくれる。まさに最高のオープンエアドライブだ。
その後、アウトバーンを下りて、以前にターボSを走らせた葡萄畑が広がる丘陵地帯に到着。ここでは鋭いフラット6のピックアップと、VTG( 可変タービン・ブレード・ジオメトリー)によって低回転域から増大されたパワー、さらにPTMで緻密に制御された理想的なトラクションにより、思い通りのラインをトレースしながらスポーツドライビングに没頭できる。
コーナーの連続でも、制動性とコントロール性に優れたフロント408mm×36mm、リア380mm×30mmのベンチレーテッド・ディスクは決して音を上げることはない。
ポルシェ・ジャパンはすでにターボ・クーペそしてターボ・カブリオレの予約販売を始めており、価格はクーペが2443万円、カブリオレは2731万円と、ターボSに対しておよそ450万円安価となる。考え方次第だが、筆者なら70ps&50Nmと引き換えに、お気に入りのオプション装備を選んで自分だけの911ターボを満喫したいところだ。
【SPECIFICATION】PORSCHE 911 TURBO CABRIOLET/ポルシェ 911 ターボ・カブリオレ
■全長×全幅×全高=4535×1900×1302mm
■ホイールベース=2450mm
■トレッド=(前)1583、(後)1600mm
■車両重量=1715kg
■エンジン種類=水平対向6DOHC24V+ツインターボ
■内径×行程=102.0×76.4mm
■総排気量=3745cc
■最高出力=580ps(427kW)/6500rpm
■最大トルク=750Nm(76.5kg-m)/2250-4500rpm
■燃料タンク容量=67L(プレミアム)
■トランスミッション形式=8速DCT
■サスペンション形式=(前)ストラット/コイル、(後)マルチリンク/コイル
■ブレーキ=(前後)Vディスク
■タイヤ=(前)255/35ZR20、(後)315/30ZR21
※数値はドイツ本国仕様